◎夢の話 第1K26夜 逮捕状
三十日の午後二時に観た短い夢です。
我に返ると、俺は道を歩いていた。
すると、一人の男が俺の前に立ち、行く手を遮る。
「貴方はプンスカさん(仮名)ですね」
「そうですが」
すると、男は自分の懐から封筒を出し、書類を引き抜いた。
「貴方には逮捕状が出ています。一緒に来て貰えますか」
「何の容疑ですか」
「これに記してある通り、契約期間が切れてもビルの一室に居座り、退去しなかった罪になります」
ここでぼんやりと思い出す。
(俺は六階建てのビルに事務所を借りていたが、契約期間をすぎてもOA機器をそのままにしていたな。で、そのまま放置していたことは確かだ。と言っても・・・。)
「でも、それは夢の中の世界の話だぞ」
俺は同じ夢を繰返し観る。列車に乗って長く旅をする夢や、俺自身の前世に関わる内容だ。
亡者の大群に追い駆けられる夢などは、これまで何百回も観て来た。
そして、この「賃貸のマンションに事務所を借りていたが、契約終了後もそのままにしている」夢も時々観るのだ。
ここで気付く。
「なるほど。俺は今、夢の世界にいる。俺は夢を観ているのだ」
目の前に立つ刑事らしき男は五十歳くらい。刑事は犯人逮捕の時に単独では行動しない。
「夢の中で建物は体の象徴だ。建物の契約が終わったのに、俺がそこに居座り、ついにはその件で逮捕されようとしている」
ということはすなわち・・・。くるくると頭を回転させ、ひとつの結論に行き着く。
「それは、俺の身体寿命はとっくの昔に終わっているのに、俺がまだあの世に旅立とうとはせず、あの手この手で居座っているから、ついには強制的に連れて行くと伝えているわけだ」
ふうん。それもありそうな展開だな。
何せ、「お迎え」を自分の眼で見てから、一年以上生き残っているのは、今のところ俺一人だけだ。
ここで覚醒。
この日は家人の求めにより外出したが、車の変速ギアの調子が悪く、途中で戻って来た。
車に加え、よく寝ていなかったせいか、体が重い。
心臓に過負荷が掛かっている状態だ。
まだ、三月のうちだし、桜が終わるのも二週間後だから、無理は利かぬ。
なんたって、私の寿命はとっくの昔に終わっている筈なのだから。
しかし、テレビが点けっ放しで、「交通違反の反則金を支払わずにいた男性が逮捕された」ニュースが流れていたから、これの影響だったかもしれぬ。
この件をわざわざニュース報道するのは、「公権力に逆らうと酷い目に遭わせるぞ」という恫喝に外ならない。
警察は知らぬだろうが、あの世ではこういう振舞いは最も大きな罪になる。
警察官の多くは、死後、アモンらの悪縁に掴まることになる。
度が過ぎれば、生きているうちに誰か一人が選ばれ、親や子、孫が消え去ると思う。
他者に脅しをかけるのは、あの世では最大級の犯罪になるからだ。
ま、いずれ思い知る。あっさり成仏など出来ない。