日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第996夜 悪魔来る (その1)

◎夢の話 第996夜 悪魔来る (その1)

 最近は居間に布団を敷いて、そこで寝起きしている。

 心臓の調子が悪く、二階への階段の上り下りがキツいためだ。

 十三日にも午前二時に居間で横になったのだが、その時に観た夢だ

 

 我に返ると、俺は自分の家の居間にいた。

 気が付いたら中央に立っていたのだ。

 視線を前に向けると、テレビの前に布団が敷いてあり、そこに男が寝ていた。

 どこぞのオヤジが俺の布団で眠っている。

 「何だ、コイツ。他人(ひと)ん家で」

 だが、男の顔に見覚えがある。

 「ありゃりゃ。コイツはもしかして・・・」

 この時、俺の後ろの食卓で物音がした。

 すぐに振り返る。

 そこに座っていたのは、黒い外套を着た妖怪顔だった。

 「お前はアモンじゃないか。何でここにいる」

 アモンは口の端を歪めてニヤリと微笑んだ。あの世の者は笑うと一層気色が悪い。

 

 「そろそろ準備が出来たかと思ってさ」

 そのひと言で、俺はコイツの訪問の意図を悟った。

 「俺を迎えに来たのか。お袋が来てくれればいいと思っていたのに、想像していた通りお前が来たか」

 アモンは顎で俺を促し、テーブルに誘った。

 「半分は当たっているが、半分は違う」

 「何だよ。その半分って」

 「生き死には関係ない。お前は俺たちの仲間になることを決心したようだから、迎えてやるために俺はここに来たのだ」

 「じゃあ、ここで寝ているのは」

 「もちろん、お前だ。生きているお前はオヤジだが、魂の方はほれ、自分を見てみろ」

 アモンが指で示したのは、ガラス窓だった。

 そこに写っていた俺は、どう見ても三十歳くらいの姿をしている。

 「なるほど。夢の中の俺はいつもこれくらいの年恰好だ。すなわち、俺の魂がこの姿だということなのだな」

 「その通り。お前の魂は、自分が望む姿を取るのだ」

 俺は目の前にいるアモンと同じように、全身黒づくめの服装だった。

 

 「じゃあ、アモン。今、俺は死ぬわけではないのか」

 「何を言って居る。お前を立たせて置くために、俺がどれほど手を尽くして来たか、お前だって分かっているだろ」

 これには思い当たるふしがある。

 俺はもはや全身が機能不全に陥っている。時々、体のどこかに腫瘍が出来る。

 その痛みたるや、鎮痛剤を幾ら飲んでも効かぬほどだ。

 このため、検査を受けるのだが、ひと月もすると自然に消えている。

 先週、今週と俺は二か所でフルコースの検査を受けたが、何も見つからなかった。

 検査の直前に痛みも消えた。ま、心臓だけはうまく動かない。

 「あれはお前が」

 アモンが頷く。

 「そうだよ。病を治すのは神ではなく俺たちの方だからな。お前の寿命はもう終わっているから、そいつを立たせておくのはひと苦労だ」

 「どうせなら心臓と腎臓も治してくれればいいのに」

 「それは治せんぞと、ミルファスが伝えた筈だ」

 「ミルファスって誰?」

 「ほれ。あの観音さまで会っただろ」

 はあ。御堂観音で会ったあの女か。確かに「心臓と腎臓は宿命のひとつだから治せない」と言った。

 他の腫瘍はあっという間に治った。胆嚢も脾臓も、そして大腸も腫瘍が消失したのだった。

 俺を調べた医師が首を捻っていたが、それは今週も同じ。

 酷い腹痛や大腿痛が、例によって数日で消えたのだが、体の重さは変わらないし足が動かない。

 

 「そんなのは死ねば治る」

 「体が無くなりゃ、そりゃ痛みも消える理屈だが、そいつは微妙だな」

 「ま、いいさ。でも腹を括ったのなら、勉強を始めて貰わぬとね」

 「勉強?」

 「修練と言う方が正確かな」

 「何をするんだよ」

 「この世に正義と秩序をもたらすために、穴を開けることだ」

 「穴」

 ここでピンと来た。

 俺は一度死んだことがあるから、生死の境目を幾らか跨ぐことが出来る。

 生きている者が本来見えぬものが見えるし、死者の心が読める。そして、その逆も。

  

 「この世とあの世は障子を隔てた関係にある。互いに相手が見えぬのだが、相手の気配は双方が感じる。俺は半運は死人だから、障子のどの位置が薄くて、穴が開きやすいかが分かる。だから、そこに穴を開けて、お前たちが通れるようにしろというわけだ。要するに穴とは通り道のことだ」

 この「穴」は時々、色んな所に出来る。

 数年前には、宿谷の滝の手前に出来ていたし、その前には赤城山だ。もちろん、御堂観音にもあった。

 数か月ごとに出来ては消える。

 

 「穴は不規則に出来るから、俺たちにもどこに出来るのかを予測できない。そこでお前がその穴を見付け、俺たちをそこに導け」

 「今、お前は俺の前にいるじゃないか。何故そんなものが必要なのだ」

 「今は障子の向こう側から話している。生きた人間が俺たちを検知出来ぬように、俺たちは人間の頃に働き掛けることは出来ても、なかなか手を出せぬのだ」

 「ひとが死ぬまで待っては居られぬということ?」

 「そう。魂は肉体という外殻に守られているから、その肉体が滅ぶまで、魂という種には届かない。栗や胡桃の実と同じだ。だが、穴があれば殻の中に入れる」

 

 (所用があるので、追ってその2に続く。)