日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第983夜 ついに「お迎え」来る

◎夢の話 第983夜 ついに「お迎え」来る

 五日の午前三時に観た夢だ。

 

 我に返ると、俺は街角に立っていた。

 通行人はまばらで行き交う車も少ない。どこか地方の街にいるようだ。

 「とりあえず先に進んでみよう」

 タイルの歩道を歩き出す。

 すると、二十㍍も行かぬうちに、左手のビルの陰から男が現れた。

 薄いロングコートを着た五十歳くらいの男だ。

 「よう」と男が声を掛ける。

 

 俺に気易く話し掛けるこの男は誰だろう?

 ほんの少し考えさせられたが、しかしそれも数秒の間だった。

 「お前は・・・。アモンじゃないか」

 俺は人生の中で、コイツに二度会ったことがある。その都度違う姿だったのだが、コイツは色んな姿に化けられる。だが、どいつも目の奥の光りが同じだ。到底、生きた人間ではない。

 「お前が来たのはこれで三度目だ。ということは、すなわち俺を迎えに来たということだ」

 「ま、そういうこと」

 いずれ自分に「お迎え」が来るとは思っていたが、それがこの日とはな。

 あれこれと手立てを打って、自身の死期を遅らせることに成功して来たが、それがあまりにも上手く行くものだから、最近は油断していた。

 季節ごとに遺書を改め、身辺の整理をしてきたのだが、今は半年以上もそれを怠っていた。

 昨日、今日と同じ明日が来るような錯覚を起こしていたのだ。

 

 「俺はまた、俺のお迎えにはお袋が来るのかと思っていたよ」

 もちろん、そんなのは願望だ。お袋が立っていたなら、瞬時に死の瞬間を悟り、共にお袋の世界に向かったと思う。

 「そうはいかないよ。お前は俺の仲間になるんだからな。お前はそう約束しただろ」

 その通りだ。俺はかつて、「死後は死にゆく者を幽界に迎え入れる務めを果たす」と約束した。

 俺はその日に備えて、いつも黒い服を着るようになっている。

 「しまった。息子に俺の死後の段取りを伝えるのを怠っていた。子は親の死ぬのを認めたくないから、突然、父親が死んだら驚くだろう」

 すると、アモンが目を細めて笑った。

 「そんなのは気にするな。生き残る者の心配は、生きている者がやればいいんだよ」

 「では、本当に今が今生の最期だということだ」

 アモンが頷きながら、自分の右手を見る。

 「実はちょっと早目に来た。お前にはあと三時間の猶予がある。と言っても、誰かに電話をしたりとか、何か行動することは出来ないがね。お前にはそれと分からぬだろうが、お前は既にあの椅子に倒れている」

 アモンが指さす方向に目を向けると、そこにはバス停のベンチがあった。

 「お前の意識は既に体を離れているのだ。もう人間としては何も出来なくなっている。これからすぐ前の店の人がお前に気付き、救急車を呼ぶが、お前が病院に入った時には、もうお前は死んでいるのだ」

 「じゃあ、俺はもう幽霊の仲間か」

 「正確には、今のお前は幽体だ。心臓がまだ僅かに動いているからな」

 急に風が吹き込んで来て、アモンの着るコートの裾がパタパタと翻った。

 

 「お前にはまだ三時間の猶予がある。その時間をお前が好きに遣うと良い」

 「好きに遣うと言ったって、物理的に何かをすることは出来ないのだろ」

 「ああそうだ。お前はお前の肉体を使うことは出来なくなっている。だが、お前自身の過去には戻ることが出来る。この三時間を上手く切り分けて、『あの時こうしていれば』という過去に戻るんだな。お前だって聞いたことがあるだろ。死の間際には『走馬灯のように記憶が蘇る』という陳腐な言い回しをな。あれはまさにこれだ。でも、一生分はないぞ。三時間の間だからな」

 「それじゃあ、俺は『あの時こうしていれば』と痛恨の気持ちを残している過去の場面に戻れるわけか」

 アモンが頷く。

 「そういうこと」

 「しかし、過去のことなんだから変えられんだのだろ?」

 「そりゃお前次第だ。タイムマシンのように、その出来事が進行している場面に戻るわけではないからな。原則としては変えられん。だが、これはお前自身の記憶によって作られた過去だ。同時にお前の記憶で作られているから、意思によってある程度は変えられる」

 「それじゃあ、苦しい経験よりも、楽しい出来事を思い出した方が良いんじゃないのか」

 「これをどう使うかはお前次第だ。ま、普通の者は『もう一度やり直したい』と思う過去に戻る」

 あと三時間か。俺が戻りたい過去とは何処なんだろうな。

 

 我に返ると、俺は駅前広場のベンチに座っていた。

 (ここで一旦、中断。)

 

 ひと言で言うと、この夢は『クリスマスキャロル』だった。

 ここから先は、過去に付き合ったことのある女性に会って行く。

 ただ、私はスクルージ爺さんで、オヤジジイの姿のままだ。

 今と繋がっているので、その当時には気付かなかった状況や心の動きを初めて理解できる。

 長い夢なので、丁寧に記す猶予がないのと、まだ結末がはっきりしないので、続きを観る必要がある。

 私の特技?は、夢を詳細に記憶していることと、連続ドラマのように続きが観られることだ。

 ちなみに、これまでの経験で言うと、「かつての彼女」は、総てアモンが成り代わっている者だ。

 途中で気付きゲンナリするが、それもその筈で、アモン本来は妖怪顔の悪縁(霊)だ。おまけにアモンは想像や妄想ではなく実在している。