◎穴は開いている(625と626)
昼頃に床屋に行った。見計らっていたわけではないが、いつも美人理容師に当たる。
三人の理容師がいるが、常にこの人になる。
最近、めっきり髪が少なくなったので、「頭頂部に合わせて下さい」と告げると、理容師は少し当惑した雰囲気だった。そこで「四センチくらい」と言い直した。
「刈り上げますか?」
「刈り上げたら寒いかも」
すると、理容師は「大して変わりませんよ」と答えた。
そりゃそうだ。いずれにせよ髪の毛があまり無いから、どっちでも同じだった(苦笑)。
鏡を久々に見たが、私と同じくらいの年頃だった頃の父にそっくりになってきた。
床屋を出ると、急に思い立って神社に行くことにした。
このところ、腹の調子が悪いから気分転換だ。
何だか、クレゾールでも飲んだように「常に煮え滾っている」感覚がある。
「さすが、秩父で腹に煙玉が出るだけのことはある」
それと、うっかり稲荷に近寄って、拾った悪縁は人事をすっかり壊している。
想像したことが総て現実になるから、私の直感もあながちただの妄想ではないようだ。
もちろん、全然嬉しくない。うんざりする。
神社の境内に入ると、いつも感じるところの「気の流れ」をまったく感じない。
あれあれ、まさか「(あの世に通じる)穴」が閉じたりしたのか。
「こりゃどうしたことだ?」
参道を歩くと、左手の山の木々が伸び過ぎていることに気が付いた。
この六年くらいで背丈が伸び、枝も広がったから、日差しを隠すようになったのだ。
正午頃にこれでは、開運神社は謳えない。
間伐をして、枝祓いをしないと、この急斜面では、いずれ木々が倒れて来ると思う。
「営林署は何をやっている?」と思い掛けたが、私有地の樹には口を出さないのだろうと思い直した。
神殿では「いい加減トラが私を迎えに来てくれますように」と祈願した。
クレゾール腹を抱えていては、生きる気力すら損なわれる。
もう十分だな。撤収して、トラと同化しよう。
神社を出ると、次に能仁寺に向かった。ここもいつものルーティンになりつつある。
お焼香をし、不動堂にご挨拶をした。
お寺を出ると、今度は「湧き水を汲みに行く」ことを思い立った。
お腹の調子が悪いから、カルキは抜いた方がよい。
そこですぐに出発し、名栗に向かった。
この地の湧水には、多くの人が訪れるのだが、入れ物をニ十個も持って来ては、延々と注水している者がいる。かなり待たされたが、さすがに二十個はやり過ぎだと思う。加減を知れよな。
車に乗ろうとすると、突然、頭の中に声が響いた。
久々に「アモンさま」のご帰還だった。この時の「声」はもの凄く大きいから、自身の考えることではないとすぐに分かる。
「お前はそれでよいのか」
ここからの内容は、他言出来ない。
もちろん、「因果応報」を旨とするアモンさまだけに、もの凄く凶悪なことだ。
アモンはこれから起こすことを詳細に語った。そのために必要な手助けについても。
「だから、この俺に願え」
おいおい。コイツはたぶん、簡単に望みを叶えてくれる。
体も良くなり(一時的に)、現世利益も果たしてくれる。十億くらいは簡単にくれる筈だ。
だが、借りを作った後には、とてつもなく重い「返し」が待っている。
体調でも人事でも苦しめられている身だ。誘惑は大きい。
アモンのことを知らねば、申し出に応じる者は多いと思う。
帰路、もう一度神社に参拝した。
アモンの姿を見たのは、この神社の中だったから、ここで収めるしかない。
一日のうちに二度同じ神社に参拝したのは、トラがいた頃に数度あっただけだ。
帰宅後、画像を点検すると、目視はし難いが、きちんと寄り付いていた。
トラに「迎えに来てくれ」と念じたことで、死の気配が漂ったためらしい。
「でっかい女」が早速寄り付いていた。
この日のことを思い返すと、確かにアモンさまの言う通りに「天罰を与えたい」者が沢山いるなあ。