昨夜の夕食の後、テレビの前で寝入ってしまった時に見た夢です。
妻と二人でマンションの1室に住んでいます。
いつも出張が多く、週に2、3日しか家に戻れません。
5日ばかり地方を回り、久々に帰宅しました。
ドアを開くと、居間には妻ともう1人の女性がいました。
「あ。お帰りなさい」と妻。
妻と向かい合って座っていた女性が頭を下げます。
伏し目ですが、左眼の周りが黒くなっていました。
(3軒隣の部屋の奥さんだ。)
「じゃあ、私は部屋に戻ります」
女性は立ち上がって、ドアから出て行きました。
少し足を引きずっています。
「おい。あれは608号の・・・」
「そう。佐々木さんの奥さん」
「またか」
「またよ」
佐々木さんのダンナは乱暴な男で、奥さんに度々手を上げているらしい。
時々、夜中に大きな物音がしますが、大体はこの部屋からです。
妻がこの佐々木さんの奥さんの相談に乗っているのを、前に聞いたことがあります。
「困ったもんだな。そろそろ限界じゃないか」
「そう。今も警察に相談しなさいとアドバイスしたとこ。今のままじゃあ、殺されてしまうかも」
「なんで手を上げているわけ?」
「嫉妬。自分がいない時に、奥さんが別の男と浮気してると思い込んでいる」
無理もない。そこの奥さんは良い女っぷりで、男なら誰でも興味を持つ。
でも、オレは人と会う商売だからすぐにわかるが、そこの奥さんは見た目とは違って、固い性格だ。
浮気なんかしない。もし好きな男が出来れば、早いうちにきちんと離婚する。
「困ったもんだな」
「困ったもんよ。あのひとの顔を見たでしょ」
「そこのダンナは普段は小心者なのに、酒を飲むと人が変わるわけだな」
「あなたも気を付けてね。普通の人とは行動時間が違うのだから、ダンナさんが荒れている時にかち合せになったら大変よ。あそこの奥さんには近寄らないことよ。2人で立っているのを見られただけで危なそうだから、ゴミ出しも私がするからね」
「そっか。そこまで酷いのか」
「そう。このままじゃ、いずれ必ず刃傷沙汰になる」
翌日はまた出張です。
車で移動することになり、夜10時ごろに、カバンを持って家を出ました。
マンションのエレベータを下り、駐車場に向かいます。
ドッシーン!
唐突に上の方で、大きな物音がしました。
続いてドアがバタンの閉まる音がします。
見上げると、6階の外廊下を急ぎ足で歩く女性がいました。
「あれは、佐々木さんの奥さん」
女性は廊下を端まで歩くと、エレベータに乗りました。
(またダンナと揉めたんだな。)
すぐに、マンションの出入口から奥さんが出てきました。
佐々木さんの奥さんは、小さなカバンを下げています。
奥さんは駐車場のほうに走って来ます。
「早く逃げなきゃ。殺される」
奥さんの呟く声が聞こえました。
バッターン!
もう一度、上のほうでドアの閉まる音がしました。
もの凄い形相のオヤジが走り出て来るのが見えます。
男は右手に大きな出刃包丁を持っていました。
そのダンナは廊下の端まで来ると、手すりから身を乗り出して下の方を見下ろしました。
たまたまその時は、奥さんが私の近くに到達した時です。
「てめいら。そこにいろ!ぶち殺してやる」
オレと隣人の奥さんとは、その時、二人とも同じようなカバンを持っていました。
「まずいわ。荷物をまとめて出て行こうとしたら、主人が帰って来たの。『男と逃げる気か』と暴れ始めて、こんなことに」
こりゃいかん。きっと浮気相手にされてしまう。
「こりゃマズイ。とりあえずすぐにこの場を離れましょう」
「ハイ」
奥さんは、すかさずハンドバッグの中に手を入れます。
しかし、車の鍵がなかなか見つからない模様で、ごそごそと掻きまわすばかり。
「ええい。オレの車でとりあえず警察に行きましょう」
「ハイ」
2人でオレの車のほうに歩き出します。
鍵を出そうとすると・・・、なんとポケットに鍵がありません。
「あなた!早く逃げて」
上から声がしました。
顔を上げると、6階の手すりの端にオレの妻が見えています。
手にはオレの車の鍵を持っていました。
オレが鍵を忘れたので、届けようとドアに近寄った瞬間に、今の騒動が起きたのでしょう。
(こりゃいかんなあ。2人で同じ車に乗ろうとしているところを見られてしまった。危険が迫っているのは、奥さんだけではなく、このオレもだ。)
「早く逃げて!」
もう1度妻の声がします。
それとほとんど同時に、マンションの自動ドアが開き、男が走り出てきました。
顔が真っ赤で、手には出刃。
オレは商売柄、カバンの中にスタンガンを持っている。
しかし、果たしてそれで間に合うものかどうか。
ここで覚醒。
目が醒めて、すぐに感じたことは、「ああ、ヤバかった」。
夢の内容ではなく、今の体調のことです。
ドッシーンは、不整脈の音で、心臓が妙な打ち方をしたので、夢にそれが出てきたのです。
確か「致死性の不整脈」と言ったように記憶しています。
この手の発作はこれまで幾度も経験済みです。
急激な不整脈の影響で、血栓が出来たり、さらにそれが脳血管に回ったりすると、2度と覚醒できなくなります。
目覚めた時には概ね何ともないのですが、「ドッシーン」の時に何が起きているのかは承知しています。
心臓病で入院していた時、これと似たような「ドッシーン」の夢を見たのですが、間髪入れず看護師2人が私のベッドに走って来ました。看護師は心電図を見張っていたので、私が致死性の不整脈を発症していることがわかったのでした。
夢に取り込まれたら、しばらくの間、あの状況のまま過ごさなくてはならなくなります。
そう思えば、ひとまずは無事に目覚めることができて良かったです。