◎夢の話 第485夜 居酒屋にて
30日水曜の朝の夢です。
眼を開くと、オレは居酒屋のカウンターに座っていた。
スーツを着ているが、若干、若い人の着るデザインだった。
たぶん、30歳台の後半くらい。
隣には知人が座っている。
実際に存在する男だが、俺の心の中で何かを象徴する人だろう。
この男とは同じ年恰好の筈だから、オレも「アラ40」ということだ。
その男が口を開く。
「離婚することにした」
オイオイ。そこの奥さんには幾度か会ったことがあるが、こざっぱりした良い女性だった。
「突然どうしたんだよ。あんなに仲が良さそうだったのに」
つい数か月前にも、こいつと一緒にゴルフに行く時に、玄関先で挨拶したっけな。
その時には何もなさそうだったが。
「なあ。転職する時には『2年間待て』と言う。仕事が嫌でやめる訳だが、転職先を探したり、それに見合う技術を身に着けたり、現職で得られる知識を最大限に持って行くには、それくらいの時間が掛かるからだ。離婚だって、心の整理や次の生活のことを考える時間が必要だ。せめて半年くらいの間、十分に準備をして、さらに別居期間を設けた上で手続きすると良い」
嫌な仕事や相手と顔を突き合わせて、2年我慢出来れば、実際にはさらに長い間我慢できる。頭に血が上っている時には見えなかったことを、冷静に考え直すことができる。
2年もの準備期間を経て、やっぱり離婚の意思が変わらなかったら、それはそれで後腐れがなく、スッパリ別れられる。
「でも、もう届を出しちまった」
「奥さんも同意したってか」
「ああ」
これは少し意外だった。
くるくると思考が回転する。
男女の別れには、必ず「金」か「他の異性」が関わっている。
表向きの理由は様々だが、「コイツと一緒にはいられない」方程式の中には、「金銭問題」か「浮気・不倫」の媒介変数が組まれている。
目の前のパートナーがどんなに嫌いでも、その後の生活が成り立たなければ離婚には踏み出さないし、代替パートナーの目途が立たなければ、とりあえず現状を維持する。
勢いで別れたが、相手が早速、別の男女とくっついているのに、自分だけがひとり者では情けないからだ。
「どうして離婚するのかとは訊かんのか?」
これを聞いて、オレはくつくつと笑った。
「お前ね。そんなのは聞かなくとも想像はつく。まずはお前の浮気だな。会社の部下かなんかの若い姉ちゃんと出来ちまった。20は年下だろう。お前はそれにのめり込んで、仕事をおろそかにしたか、奥さんにばれたかだ。あとはゼニカネの不始末が絡んでいる。ま、愛人と旅行に行ったりするには金が掛かるからな」
「・・・」
「普通はそれでスッタモンダしても、何となく元に戻る。30歳台は男盛りで、雌にフェロモンを感じ取ればフラフラとそっちに行くもんだ。この辺、奥さんのかじ取りが上手なら、ダンナの動きを封じて軌道を修正させ、うまくまとめる」
まあ、男の浮気がどうにも我慢ならない女性も多い。
喚き続けてダンナを攻撃し、その結果、別の女の方に一層、ダンナを押しやる。
「でもそれは」
と言い掛けて、そこでオレは話をやめた。
続きは、「奥さんの方に、何か変化が起こっていない時の話だ」ということだ。
女の方にだって、ダンナと同じことが起こっていないとは限らない。
離婚の話が出た時に、すんなり話が決まるのには、それ相応の理由がある。
まあ、この話はここまでだ。
気さくでこざっぱりした奥さんに見えたが、近くで見ると、外面とはかなり違っていたりする。
親を病院に連れて行くのに、いちいち金を取る息子もいる。
金には困っているようには見えず、実際、外の者には太っ腹に振舞っていたりするが、家族に対しては別人なわけだ。
こういうのは他人には見えない。
大体の人間は、自分を守るため、他人を悪者に仕立てようとするもんだし。
「詳細は訊かないし、たいそうな事は言えないが、徳俵に足が掛かってから、もう一度全体を眺めることは必要だと思うね」
今度はこの男の方がゲタゲタと笑った。
「おいおい。お前が言うなよ。お前だって5回も結婚してるじゃないか」
あれま。本当だ。
夢の中のオレは、これまで5回結婚していた。
ってことは、すなわち、少なくとも4回は離婚しているわけなんだな。
ここで覚醒。
ごく普通の夢ですが、知人の言う通り、家人と結婚していなければ、たぶん、4回5回と結婚・離婚を繰り返していたと思います。
この夢には、家人は話の中にはまったく出て来ないわけですが、実際は家人の夢なのだと分かります。おそらく、この先の展開はそう繋がります。
書き手の表現したいテーマが「文面にはまったく出て来ない」という路線が好きで、時々、使うのですが、「読むほうに伝わり難い」という難点があります。
ホラーっぽくなくてスイマセン。
今ではホラー夢も復活していますが、原則として作品の方で使うつもりです。
その代わり、次に撮れた「画像」は載せる予定です。