続きです。
そこで3人でネットにアップした画像を点検してみた。
襖が少し開いていて、押入れの中に片目が見えている。
「別に撮った通りだよな。目だけだから男か女かは分からないだろ」
ここでAが気づく。
「ほら。上の段にも暗い影が見えている。これって長い髪の女じゃね?」
「ホントだ」
「勘弁してよ」
でも、十秒後にオレは真相を発見した。
「この画像。書き換えられてねえか」
よく見ると、オレが撮った画像と少し違っていた。
元の画像を拡大して並べ、比べて見た。
「おお。画像を直してある」
なるほど。これをアップしたのは〇〇〇のサイトだから、侵入はそれほど難しくない。
画像に手を加えた上で、元の記事をまるごと書き換えたわけか。
「スゴイね。わずか1時間かそこらでこれくらいの操作が出来るなんて」
「ウソの心霊写真を撮ったら、偶然そこに霊が映っていたなんて、ありきたりな怪談だろ」
「普通の閲覧者ならありきたりだが、最初のを撮ったおれらにとっては、かなり気持ち悪い」
これを直したヤツは、オレたちの悪戯に乗っかって、悪戯を「2段組み」にしたわけだ。
「動画にも手を加えてあるのかな」
「見てみよう」
動画を開いて見ると、こちらは別段何の変化も無かった。
「さすがに、アップしてからこの短時間では、動画の加工は無理か」
「目だけ見ると、お前でも少しハンサムに見える」
「惚れたか?残念だがオレにはそういう趣味は無い」
「バカやろ」
やはりアナログで仕立てて方が、修正画像より本物らしく見える。
なかなか怖そうな絵になっていた。
しかし、動画は4分で終わるはずだったのだが、まだ続きがあった。
襖から幽霊役が出て来て、首尾について話している。
「何だ。スイッチ切ってなかったのか」
「ネタをバラしてんじゃん」
動画の方では、そのまま少し雑談しながら、廊下の側の襖を開いている。
部屋と廊下は襖1枚で、この建物はかなり古いつくりだ。
廊下の向こうはガラス窓で、裏の山々が見える。
ちょうど夕ご飯時で、奥の広間で宴会が始まっているようだ。
その音がざわざわとビデオに入っていた。
次に廊下を歩く音がして、仲居さんがお銚子を奥の部屋に運んで行った。
襖の開く音。
開いた襖の間から、酔客の声が漏れてくる。
「待ってました。どんどんお酒を持ってきてね」
「今晩はトコトン飲むぞ~」
ここで、録画は終わっていた。
これを見終わったオレたち3人は、いずれも顔面蒼白となっていた。
「おい。あの貧乏旅館でオレたちの他に客なんか泊まっていたっけか」
「あの仲居も30台前半だよな。あれくらいの齢恰好の人を一度でも見掛けたか」
「記憶にない。爺婆ばかりだったな」
この動画にはコメントが付けられていた。
「うわ~。本当だったんだね。この旅館」
「噂には聞いていたけど、本当にあったとは」
「動画で撮れたのはスゴイぞ」
オレたちが泊まった古い旅館は「幽霊が宴会をする旅館」として有名な場所だったらしい。
この旅館で写真を撮ると、時々あの仲居が顔を出すとのことだ。
もちろん、生きている人ではない。
ここで覚醒。
旅館に泊まったら、「他に泊り客がいないはずなのに、奥座敷では宴会をやっていた」という経験が実際にあります。
その時の夢をたまに見るのですが、これは体験をそのままなぞる夢ではなく、少しかたちを変えてありました。
文章にすると、やはり月並みな話ですが、当事者にとっては、仲居さんが歩く時の衣擦れの音さえ聞こえるリアルさです。
あの宴会の主たちは、今でも酒を飲んでいるのでしょうか。
おそらく旅館は無くなっていると思いますが、あの場所が無くなったら一体どこに行くのでしょうか。
私のような体験者の記憶の中に生き続けるしか他に道はなさそう。
だから、こうやっていつまでも夢に出続けるのかも知れません。