日曜の朝方に見た短い夢です。
気がつくと、ベッドの前に立っている。
ベッドの上に横になっているのは父だ。
「なんだか、手や足の先が冷たい」
父はぶるぶる震えている。
父の表情は実際よりも、5、6歳は老けて見える。
頭の中で、「父は死出の旅に出ようとしているのだ」という声が聞こえる。
「オヤジ。足をさすってやろう。少し暖かくなるだろ」
上布団の下に手を入れ、足に触れると、父の言葉の通り、本当に冷たくなっている。
「氷のよう」とはこのことだ。
足首から膝までをゆっくり擦る。
父は重度の糖尿病で、足先の感覚は鈍いはずだ。
ゴシゴシと擦っているうちに、体温が戻って来る。
しかし、糖尿病患者は、実際の体温よりも冷たく感じるものだ。
「いくらか良くなった?」
父は首を振り、「まだ寒い」と言う。
ベッドに腰を掛け、父の脛を丁寧に擦る。
そうしているうちに、父の顔に赤みが差してくる。
「ああ。だいぶ楽になってきた」
良かった。
父は小さな商店の主で、ずっと働きづめの人生を送ってきた。
朝から夜遅くまで休みなく働いていたので、昼食と夕食の後に、落ちるように居眠りをした。
どんな季節でも、台所の板間でごろ寝をしていた。
隣の居間には長椅子があるのだが、疲労のせいでそこまでたどり着けなかったのだ。
母は長い間病院に入っており、家にはいなかった。
父は必死で働いて、子どもたちを男でひとつで育てたのだ。
しかし、息子のオレの方は、親の眼が届かないのをいいことに放蕩三昧だった。
「スマン。オヤジ」
父の脛を摩りながら、あれこれ昔のことを思い出す。
どれもこれも、後悔にまみれている。
「オヤジ。オレもなんとか頑張って、せめてオヤジより先に死なないようにするよ」
丁寧に父の脚を摩り続ける。
ここで覚醒。
かつての父と同じように、居間の床で眠り込んでしまうことが多いのですが、状況はまるで違います(苦笑)。
先日、父の見舞いで郷里を訪れたのですが、老いた父を目前にして感じたことが夢に出たのだろうと思います。
何せ、こちらも重い持病のある身ですので、「父より先に死なないように」は本音です。