日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第259夜 お迎え

今朝方に観た短い夢です。

眼が覚めると、車の運転席にいた。
横を向き、窓に写る顔を見る。
オレはどうやら二十台半ばだ。
この辺、夢の中で鏡やショーウインドウに顔を写してみるという技を覚えたので、今の自分がどういう立場なのかがすぐに分かるようになって来た。

今、オレはアルバイトに駆り出され、運転手を務めているのだ。
車はワゴン車で、6人は乗れる。
「一体、誰をどこに乗せて行こうとしてるんだろ」

すると、後ろのドア付近に女性が歩み寄ってきた。
「開けて」
後ろは自動ドアなので、オレはすぐにドアを開いた。
「お待たせ」
女性に続き、男が1人乗って来た。

この2人。どこかで見たことがあるなあ。
すぐに思い出す。
女性は太地喜和子さんで、かつての女優だ。もう一人の男も、藤岡琢也さんという男優だった。
「じゃあ、行きましょう」
一体どこへ?
オレが発進できずにいると、喜和子さんが行先を言ってくれる。
「岬を回るコースでいいわ」

なるほど。
車が頭を向けている先には、大きな岬がある。
岬の先はどこに行くかは知らないが、とりあえずそっちに行けば良いわけだ。
オレは車を出した。

20分ほど車を走らせると、岬の先に着いた。
目の前に大海原が拡がる。
「きれいね」
もうじき日が沈む。
水平線が赤く染まり、美しかった。
しばらくの間、車を停めて、夕日を眺めた。

「もう少し先に小料理屋があるから、ご飯でも食べて行きましょう。そっちに回って」
「はい」
そう言えば、この人はお酒をたくさん飲む女優さんだったなあ。
直接の面識はないのだが、そんな印象がある。

小料理屋の暖簾はすぐに見えた。
岸壁のすぐ近くに、数件の店が立ち並んでいて、その一番最初が小料理屋だった。
海の近くなので、磯料理でも出しているのだろう。

入り口のすぐ前に車を付ける。
「さあ行きましょう」
太知さんが先に降り、藤岡さんがそれに続いた。
2人で店の前に立つ。
すると、2人は揃って、こちらを振り向いた。
「ねえ。あなたも一緒に食べない?そろそろ良いでしょう」

「え?」
唐突な申し出に、思わずドキッとした。
これまで、一度も食事に誘われたことは無いのだ。
ここには何度も来ているが、車を降りたことすら無かった。
いつも誰かを乗せて来ては、ここでその人たちを降ろし、自分だけ道を引き返した。
それが当たり前だと思っていたので、びっくりしたのだった。

頭の中で、「まだやめとけ」という声がした。
ここで車を降りるのももちろんだが、物を食べたりするなどもっての外だ。
「戻れなくなってしまうからなあ」
その一方で、「もうそろそろ良いんじゃないか」という考えも浮かんでいる。

次第に頭がボンヤリして来る。
「この人たちは両方とも亡くなった方たちだよな」
「一緒に来い」と言われるのは、あまり良いことではないよな。
オレは時々、あの世とこの世の間を行ったり来たりしているから、作法のことは知っている。
短い時間、周りのことを見聞きする分には影響はないが、食べ物や飲み物を口にしてはならないのだ。
飲み食いすると、その瞬間に、こちら側の住人になってしまう。

こりゃ早いとこ断って、家に帰らねば。
横を向くと、太地喜和子さんが、窓のすぐ間近で微笑んでいた。

ここで覚醒。

太地喜和子さんと藤岡琢也さんの組み合わせは、小学生の時に観た映画の出演者ということでしょう。
確かフランキー境さんが主演の映画だったのではないでしょうか。
太地さんはストリッパー役だったかしら。
父は大人の観る映画に、ごく普通に子どもたちを連れて行きました。

こんな古い記憶が呼び戻されるとは。
本当に「お迎え」が近くなっているのかもしれません。
夢の途中から、「やめておけ」「もう目を覚ませ」という声が響いていました。