9月5日の昼に、小一時間ほど昼寝をしました。その時に観ていた悪夢です。
気がつくと、周囲は荒れ果てた砂漠だった。
砂漠と言っても、主に岩で出来ている岩石砂漠のほうだ。
「ここには何度も来たことがあるよな」
見渡す限り、何もないところだ。
四方を見回すと、一か所だけうっすらと道のような筋が見えている。
オレはそちらに進むことにした。
岩と石ころの間を縫うように、前に進むが、やはり何も無い。
空は青く、雲1つない。
「どこまで行っても、砂漠だけなんだよな」
たまに、川に行き当たることもある。
でもそこは三途の川だから、近づいてはならない。
今は夢の中にいるけれど、うっかり三途の川を渡ったら、眠り込んだままあの世行きだ。
(いつも通り、自分が夢を観ているという実感があります。)
喉も乾かないし、腹も減らない。
疲労感はあるが、疲れているからじゃない。
ここはそういう所だからな。
少し離れたところに、大きめの岩が見えて来た。
道筋の右手だ。
ゆっくり近づくと、それは岩ではなく、女の頭だった。
5メートルはありそうな「巨大な頭」だけが転がっている。
「亡者か」
死んでも、自分が死んだことを知らず、このままこの世界に留まっている魂だ。
頭の中は妄想で一杯だから、こんなに膨れ上がってしまったのだ。
女はあぐあぐと口を動かして、何かを叫ぼうとしている。
こういうのにももはや慣れた。
最初はびっくりしたが、コイツはオレとは何の関係も無いからな。
ここは砂漠で何も無いように見えるが、それは、オレやここにいる他の魂が、他の者と関わりを持とうとしないからだ。
もし繋がりがあるのなら、お互いに相手の存在が分かるが、ほとんどそういうことはない。
砂漠どころか、何億という「浮かばれぬ魂」が溢れているはずだが、お互いに見えないおかげで助かっているのだ。
恨みつらみを述べ立てる亡者の話など聞きたくない。
それなら、砂漠で何もない方がましだ。
だが、たまにはこんな風に魂が見えることもある。
生きている人が、たまに幽霊を見ることがあるのと一緒だな。
ま、幽霊の場合は大半が妄想なんだけどね。
女の頭は皺々のバーサンだった。
さすがにこれだけ大きなバーサン頭だと、気味が悪い。
もはやバーサンと言うより、ゾンビに近いもの。
なるべく見ないようにして、脇を通り過ぎる。
こういう世界では「無視する」「意識しない」のが、相手に関わらないための有効な手段だ。
ちなみに、生者の世界の幽霊への対処法もこれと同じだ。
とにかく、「関わらない」のが大切で、例えば心霊写真が撮れたら、「即座に破いて捨てる」が正解だ。
興味を持つことは近づくことだ。自分から近づいているのに、怖がるなんてお門違いだろ。
お経を読んだりご供養したりするのも「関わること」と一緒だ。
本物の悪霊なら、ちょっとご供養したところで必ず祟る。写真に写る・写らないのは関係なく、影響がある時はあるのだ。だから写真そのものは、どうでも良い。
写真でなく、自らの精神と魂を整えろよな。
もし、関わってしまった時はどうするか。
一番簡単な悪霊祓いは、「オレはお前とは関係が無い。知ったことか」と宣言し、サッサと遠ざかるというものだ。
女の頭の脇を過ぎる時、オレはうっかりそいつを見ちまった。
何せ5メートルもあるんだし、つい興味を覚えてしまったのだ。
「ネッシーが写ってる」と言われれば、誰でもその写真を見てしまう。それと同じだ。
好奇心には勝てないからな。
女の頭の、文字通りの「鼻の先」で、オレはそいつを見た。
すると、女の方もオレのことをじろっと見た。
驚いた。この世界には何度も来ているが、こういうことは初めてだった。
やはり足が止まる。
巨大な女(の頭)は、そのままオレを凝視している。
そこでオレは呪文を唱えた。
「ここはこの世とあの世とを繋ぐ亡者の世界だ。己を救うのは己のみ。己を救えるのは己のみ。オレはお前とは何の関わりが無い」
こだわりをその場に脱ぎ捨てて、オレは立ち去ろうとした。
すると女がオレを呼び止めた。
「待って」
無視すると、さらにひと言。
「ケンジさん」
思わず振り返る。
「お前。オレのことを知っているのか」
「わたしよ。わたし」
その一瞬に、記憶が甦った。
「理恵」
今は老婆の頭だけだが、コイツはオレが十年前に付き合っていた女だった。
女の顔が、26歳くらいの年恰好にパッと変わった。
「お前。死んだのか」
「え?」
「ここは死なないと来られない所だ」
「ウソ。わたしは死んでなんかいないよ」
理恵の口を尖らせる表情が昔とまったく同じだった。
ここでオレは今の事態に気がついた。
「イケネ」
死んだ者には、一切関わってはならないのだった。
こいつらには、自分を意識することが出来る肉体が無い。
このため、自分と他人の境界が曖昧になっているのだ。
そう考えるオレの目の前で、大頭が姿を変えようとしていた。
顔のかたちがボコボコと動き、別の物になって行く。
そこに現れたのは、オレの顔だった。
「不味い。早くここを出ないと」
この女の魂はオレと同化しようとしている。
生きている人の言葉で言えば、悪霊がオレに憑依しようとしていたのだ。
こりゃ不味いぞ。
目覚めた時に、表に連れ出さないように、ここでスッパリと断ち切らねば。
ここで覚醒。
地獄は「あの世の少し手前」にあります。
この砂漠を訪れる夢は頻繁に観ます。