日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第265夜 黄泉の手前で

9月5日の昼に、小一時間ほど昼寝をしました。その時に観ていた悪夢です。

気がつくと、周囲は荒れ果てた砂漠だった。
砂漠と言っても、主に岩で出来ている岩石砂漠のほうだ。

「ここには何度も来たことがあるよな」
見渡す限り、何もないところだ。
四方を見回すと、一か所だけうっすらと道のような筋が見えている。
オレはそちらに進むことにした。

岩と石ころの間を縫うように、前に進むが、やはり何も無い。
空は青く、雲1つない。
「どこまで行っても、砂漠だけなんだよな」

たまに、川に行き当たることもある。
でもそこは三途の川だから、近づいてはならない。
今は夢の中にいるけれど、うっかり三途の川を渡ったら、眠り込んだままあの世行きだ。
(いつも通り、自分が夢を観ているという実感があります。)

喉も乾かないし、腹も減らない。
疲労感はあるが、疲れているからじゃない。
ここはそういう所だからな。

少し離れたところに、大きめの岩が見えて来た。
道筋の右手だ。
ゆっくり近づくと、それは岩ではなく、女の頭だった。
5メートルはありそうな「巨大な頭」だけが転がっている。
「亡者か」
死んでも、自分が死んだことを知らず、このままこの世界に留まっている魂だ。
頭の中は妄想で一杯だから、こんなに膨れ上がってしまったのだ。
女はあぐあぐと口を動かして、何かを叫ぼうとしている。

こういうのにももはや慣れた。
最初はびっくりしたが、コイツはオレとは何の関係も無いからな。
ここは砂漠で何も無いように見えるが、それは、オレやここにいる他の魂が、他の者と関わりを持とうとしないからだ。
もし繋がりがあるのなら、お互いに相手の存在が分かるが、ほとんどそういうことはない。
砂漠どころか、何億という「浮かばれぬ魂」が溢れているはずだが、お互いに見えないおかげで助かっているのだ。
恨みつらみを述べ立てる亡者の話など聞きたくない。
それなら、砂漠で何もない方がましだ。

だが、たまにはこんな風に魂が見えることもある。
生きている人が、たまに幽霊を見ることがあるのと一緒だな。
ま、幽霊の場合は大半が妄想なんだけどね。

女の頭は皺々のバーサンだった。
さすがにこれだけ大きなバーサン頭だと、気味が悪い。
もはやバーサンと言うより、ゾンビに近いもの。
なるべく見ないようにして、脇を通り過ぎる。
こういう世界では「無視する」「意識しない」のが、相手に関わらないための有効な手段だ。
ちなみに、生者の世界の幽霊への対処法もこれと同じだ。
とにかく、「関わらない」のが大切で、例えば心霊写真が撮れたら、「即座に破いて捨てる」が正解だ。
興味を持つことは近づくことだ。自分から近づいているのに、怖がるなんてお門違いだろ。
お経を読んだりご供養したりするのも「関わること」と一緒だ。
本物の悪霊なら、ちょっとご供養したところで必ず祟る。写真に写る・写らないのは関係なく、影響がある時はあるのだ。だから写真そのものは、どうでも良い。
写真でなく、自らの精神と魂を整えろよな。
もし、関わってしまった時はどうするか。
一番簡単な悪霊祓いは、「オレはお前とは関係が無い。知ったことか」と宣言し、サッサと遠ざかるというものだ。

女の頭の脇を過ぎる時、オレはうっかりそいつを見ちまった。
何せ5メートルもあるんだし、つい興味を覚えてしまったのだ。
ネッシーが写ってる」と言われれば、誰でもその写真を見てしまう。それと同じだ。
好奇心には勝てないからな。

女の頭の、文字通りの「鼻の先」で、オレはそいつを見た。
すると、女の方もオレのことをじろっと見た。
驚いた。この世界には何度も来ているが、こういうことは初めてだった。
やはり足が止まる。
巨大な女(の頭)は、そのままオレを凝視している。

そこでオレは呪文を唱えた。
「ここはこの世とあの世とを繋ぐ亡者の世界だ。己を救うのは己のみ。己を救えるのは己のみ。オレはお前とは何の関わりが無い」
こだわりをその場に脱ぎ捨てて、オレは立ち去ろうとした。

すると女がオレを呼び止めた。
「待って」
無視すると、さらにひと言。
「ケンジさん」
思わず振り返る。
「お前。オレのことを知っているのか」
「わたしよ。わたし」
その一瞬に、記憶が甦った。
「理恵」
今は老婆の頭だけだが、コイツはオレが十年前に付き合っていた女だった。
女の顔が、26歳くらいの年恰好にパッと変わった。
「お前。死んだのか」
「え?」
「ここは死なないと来られない所だ」
「ウソ。わたしは死んでなんかいないよ」
理恵の口を尖らせる表情が昔とまったく同じだった。

ここでオレは今の事態に気がついた。
「イケネ」
死んだ者には、一切関わってはならないのだった。
こいつらには、自分を意識することが出来る肉体が無い。
このため、自分と他人の境界が曖昧になっているのだ。

そう考えるオレの目の前で、大頭が姿を変えようとしていた。
顔のかたちがボコボコと動き、別の物になって行く。
そこに現れたのは、オレの顔だった。
「不味い。早くここを出ないと」
この女の魂はオレと同化しようとしている。
生きている人の言葉で言えば、悪霊がオレに憑依しようとしていたのだ。

こりゃ不味いぞ。
目覚めた時に、表に連れ出さないように、ここでスッパリと断ち切らねば。

ここで覚醒。

地獄は「あの世の少し手前」にあります。
この砂漠を訪れる夢は頻繁に観ます。