日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第299夜 籠城

疲労が溜まっているらしく、買い物から帰って夕食の支度を終えると、すぐに寝入ってしまいました。
目が醒めると、既に2時を過ぎていました。
私にしては長く寝られたのですが、これはその最後の方で観た夢です。

気がつくと、門の前にいた。
ここはある館の裏門だ。
仲間の具合が悪くなったので、間近にあったこの館を訪れ、休ませて貰おうと思ったのだ。

次第に今の状況を思い出す。
俺はもはや初老の域に達している。
坊主頭で、小袖に野袴の出で立ちだ。

隠居老人の仲間数人が集まり、近くの札所を訪れようと思い立った。
仲間は五人で、皆五十台から六十台だ。
既に隠居しており、隠遁生活を送っているので、長い間の旅行は無理だ。
だから、三泊程度の旅程で、寺社を回ろうとしたのだった。

しかし、さすがに齢だ。
仲間の1人が疲労からか、体調を崩した。
まあ、元々、病気がちだったから仕方ない。
そこで、昔、縁があったこの館に立ち寄ったというわけだ。

館門を開いたのは、老爺の弥平衛だった。
「ああ。勘兵衛さま。ご無沙汰しております」
「おお、弥平衛。変わりなかったか。済まぬが、連れの者に水を一杯くれぬか。気分が悪くなったのだ」
「それでは、中にお入りください。武者溜でお休みになられては」
老爺に導かれ、中に入る。
武者溜は、裏門から入ると、すぐ横の方にある。
板間に上がって、病人を休ませた。

自らも腰を下ろし、一服する。
そこへ弥平衛が白湯を運んで来る。
「弥兵衛。お屋形様はお元気か」
「今は鶴島城の警護に出られております」
「島岡が動きそうなのか」
「はい。兵を取りまとめておるようです」
島岡はこの国を治める川之原一族の旧敵で、幾度となく侵入を試みている。
この地の領主は分家で、本家の支援のため兵を出しているのだ。
俺は元々、先代のお屋形様に仕えていたが、二年前に家督を息子に譲り、隠遁生活を送っていた。

留守居はどなただ?」
「皆出払っており、今、この館には秋姫様がおられるだけです」
秋姫は当代館主のひとり娘。俺は当代の主を息子のように育てたので、俺にとって姫は孫のようなものだ。
「姫様お一人なのか?」
「火急の事態にて、男衆は皆参陣しました。この館に残っているのは姫様付きの警護が二人と、老爺が一人。後は女子どもです」
「小領とはいえ、ここは北方防衛の拠点のひとつ。館を守るのが数人では、心許なかろう」

なんとなく嫌な予感がする。
本家の居城はかなり南方にあり、そちらに兵を向けたとなると、北の側はがら空きになる。
隣国の河合一族は島岡と近しいので、もしこの機に河合が攻めて来たら、この小人数ではひとたまりもなくやられてしまう。

「河合とは相互不可侵の約定がありますが」
「文言はただの文言だ。守られた例があるか」

この場へ、若者が一人駆け込んで来た。
「弥平衛様、弥平衛様。大変でございます。北山に河合の手が!」
「なに!」
「総勢は五百ほど。あとふた時もすればこちらに到着します」
「攻めるつもりなのか?」
「皆、甲冑姿です!」

俺の感じた悪い予感は当たっていた。
南北の敵が結託して、この国を攻めようとしているのだ。
「よし。武器庫を開け。まだ槍や弓は幾らか残っているだろう。姫様をお守りするのだ」
この城を守るのは、僅か数人だ。
隠居老人でも侍は侍だ。ここは俺たちの出番だろ。

後ろを振り向くと、仲間の四人は既に立ち上がっている。
気分のすぐれなかった平八も、今は活気に満ちた表情をしていた。
「さて皆。お屋形様が戻って来るまで、概ね三日掛かる。その間はここで籠城だ。敵はたった五百。なんということもあるまい」
これに、他の四人が声を揃え「おう」と答えた。

ここで中断。

長く寝ていたので、映画一本分のストーリーを得ました。
昨夜「七人の侍」を観ましたので、影響があったのでしょう。
なにせ「勘兵衛」と「平八」です。
夢の中の私は、きっと志村喬さんの姿をしていたものと思います。

追記)
ちなみに「七人の侍」で勘兵衛役を演じていた頃、志村喬さんはまだ48-49歳でした。
おいおい、ですね。
今の同じ年頃の者より、はるかに落ち着いて見えます。