疲労が溜まっているらしく、買い物から帰って夕食の支度を終えると、すぐに寝入ってしまいました。
目が醒めると、既に2時を過ぎていました。
私にしては長く寝られたのですが、これはその最後の方で観た夢です。
気がつくと、門の前にいた。
ここはある館の裏門だ。
仲間の具合が悪くなったので、間近にあったこの館を訪れ、休ませて貰おうと思ったのだ。
次第に今の状況を思い出す。
俺はもはや初老の域に達している。
坊主頭で、小袖に野袴の出で立ちだ。
隠居老人の仲間数人が集まり、近くの札所を訪れようと思い立った。
仲間は五人で、皆五十台から六十台だ。
既に隠居しており、隠遁生活を送っているので、長い間の旅行は無理だ。
だから、三泊程度の旅程で、寺社を回ろうとしたのだった。
しかし、さすがに齢だ。
仲間の1人が疲労からか、体調を崩した。
まあ、元々、病気がちだったから仕方ない。
そこで、昔、縁があったこの館に立ち寄ったというわけだ。
館門を開いたのは、老爺の弥平衛だった。
「ああ。勘兵衛さま。ご無沙汰しております」
「おお、弥平衛。変わりなかったか。済まぬが、連れの者に水を一杯くれぬか。気分が悪くなったのだ」
「それでは、中にお入りください。武者溜でお休みになられては」
老爺に導かれ、中に入る。
武者溜は、裏門から入ると、すぐ横の方にある。
板間に上がって、病人を休ませた。
自らも腰を下ろし、一服する。
そこへ弥平衛が白湯を運んで来る。
「弥兵衛。お屋形様はお元気か」
「今は鶴島城の警護に出られております」
「島岡が動きそうなのか」
「はい。兵を取りまとめておるようです」
島岡はこの国を治める川之原一族の旧敵で、幾度となく侵入を試みている。
この地の領主は分家で、本家の支援のため兵を出しているのだ。
俺は元々、先代のお屋形様に仕えていたが、二年前に家督を息子に譲り、隠遁生活を送っていた。
「留守居はどなただ?」
「皆出払っており、今、この館には秋姫様がおられるだけです」
秋姫は当代館主のひとり娘。俺は当代の主を息子のように育てたので、俺にとって姫は孫のようなものだ。
「姫様お一人なのか?」
「火急の事態にて、男衆は皆参陣しました。この館に残っているのは姫様付きの警護が二人と、老爺が一人。後は女子どもです」
「小領とはいえ、ここは北方防衛の拠点のひとつ。館を守るのが数人では、心許なかろう」
なんとなく嫌な予感がする。
本家の居城はかなり南方にあり、そちらに兵を向けたとなると、北の側はがら空きになる。
隣国の河合一族は島岡と近しいので、もしこの機に河合が攻めて来たら、この小人数ではひとたまりもなくやられてしまう。
「河合とは相互不可侵の約定がありますが」
「文言はただの文言だ。守られた例があるか」
この場へ、若者が一人駆け込んで来た。
「弥平衛様、弥平衛様。大変でございます。北山に河合の手が!」
「なに!」
「総勢は五百ほど。あとふた時もすればこちらに到着します」
「攻めるつもりなのか?」
「皆、甲冑姿です!」
俺の感じた悪い予感は当たっていた。
南北の敵が結託して、この国を攻めようとしているのだ。
「よし。武器庫を開け。まだ槍や弓は幾らか残っているだろう。姫様をお守りするのだ」
この城を守るのは、僅か数人だ。
隠居老人でも侍は侍だ。ここは俺たちの出番だろ。
後ろを振り向くと、仲間の四人は既に立ち上がっている。
気分のすぐれなかった平八も、今は活気に満ちた表情をしていた。
「さて皆。お屋形様が戻って来るまで、概ね三日掛かる。その間はここで籠城だ。敵はたった五百。なんということもあるまい」
これに、他の四人が声を揃え「おう」と答えた。
ここで中断。
長く寝ていたので、映画一本分のストーリーを得ました。
昨夜「七人の侍」を観ましたので、影響があったのでしょう。
なにせ「勘兵衛」と「平八」です。
夢の中の私は、きっと志村喬さんの姿をしていたものと思います。
追記)
ちなみに「七人の侍」で勘兵衛役を演じていた頃、志村喬さんはまだ48-49歳でした。
おいおい、ですね。
今の同じ年頃の者より、はるかに落ち着いて見えます。