夕食後、例によって居眠りをしました。
その時に観た短い夢です。
気がつくと、どこか田舎町の食堂の中にいた。
レストランではなく、昔風の「食堂」だ。
入り口に、ナポリタンやハンバーグの見本が飾ってあるような店だった。
オレは食事を始めたが、疲れからか、半分食べたところで寝入ったらしい。
今は冬で、この店の中は暖房がガンガン効いている。
これも今どきは滅多にない。
「そう言えば、娘が4歳くらいの時、カレーを半分食べてところで寝込んでいたな」
オレも子どもなみの体らしい、と苦笑した。
店内のテーブルには、どこも客が埋まっていた。
老若男女さまざまだ。
なんとなく視線を感じるので、周囲を見回すと、オレが目を向けた人は眼を合わせないように別の方向を向く。
「顔をそむける」と言った方が正確な表現だ。
(だが、皆オレのことを見ている。)
俺が下を向くと、すぐさま誰かがオレの様子を覗っているような気配がある。
「何だろ」
何か、他人が気になるような原因がオレにあるのだろうか。
自分の体を見回してみる。
カバンや服装、別に何の面白味も無い普通の中年オヤジだ。
オレは独り旅が好きで、かつこんな田舎の食堂も好きなのだ。
半ばはノスタルジアと言っても良い。
昭和の、あの高度成長期の感じを思い出すからな。
オレはカキフライを食っていた。
ほとんど食い終わり、キャベツをもしゃもしゃと口に入れた。
やはり、周りの視線を感じる。
(一体、何なんだよ。こいつらは。)
もう一度顔を上げて、周りに目をやると、やはり皆が一斉に目を背ける。
オレはそのうちの1人に目を付けた。
(よし。コイツにしよう。)
二十台の若い男だ。女と一緒に飯を食いに来たという風情だ。
ごろを巻くには、コイツが良さそうだ。
気が弱そうだし、すぐに口を割るだろ。
オレはまた自分の顔を下に向けた。
すぐに回りの視線がオレに集まった。
頃合いを見計らって、オレは急に顔を上げ、さっき決めた男を見据えた。
「何だよ。何でオレのことを見る」
男は予期していなかったらしく、うろたえた。
「いえ。何でもありません」
オレはがばっと立ち上がった。
「何でもなくはないだろ。お前はさっきからじろじろオレのことを見てるんだよ。お前だけでなく、この店にいるヤツら全員がだ!」
ここでオレは腹を決めた。
面倒くさい。こいつらを全員畳んでやる。
椅子の背もたれに手を掛ける。
すると、中年のオバサンが前に出て来た。
「あの。言ってもいいのかわからないけれど・・・」
顔が強張っている。
明らかにオレのことを恐れているのだ。
「あなた。どうして女の人を背負っているんですか。そのひと。顔色がとても青い。相当、具合が悪いんですよ」
え。何を言ってるんだよ。このババア。
「別にオレには連れはいないよ」
途端に女が不思議そうな顔をする。
「いるじゃないですか。あなたの右肩に顔を半分載せてるでしょ」
オレはここでなんとなく状況が分かって来た。
「なんだそれか。それでお前たちはオレのことを見てたのか」
オレはゆっくりと前に進んだ。
「女がオレの肩に乗ってるなら、そりゃオレの前の女房だろ。オレがあいつを殺してから、大体15年くらい経つ。そろそろ悪霊になって迷い出て来る時期だな」
オレはさらに2歩進んだ。
「こいつはひどく祟るぞ。さあ、お前たちも味わえ!」
オレは皆に見えるように、右肩を前に突きだした。
オレには見えないが、きっとこいつらには見えるんだろ。
「ひゃあ」「きゃー」「幽霊だあ」
店内の客たちが一斉に背中を向け、オレの前から逃げ出した。
ここで覚醒。