日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第329夜 首 (続き)

体調がイマイチでしたので、前回は起床の後、すぐに病院に行きました。
さて、続きです。

友だちの1人、コウゾウが呟く。
「じゃあ、一体どんな怨念を抱いて、この世に現れているんだろうな」
「ひと度死んでしまえば、誰かを標的にして祟りをなすことは出来ない。どうにも解せないよな」
これはリュウイチだ。

「まさか親子連れで山に登ろうとしている時に、怨霊に襲われるとはな。おかげで、こんな山荘に閉じ込められて出られずにいる」
そう。俺たちは父子のグループで登山に来たのだが、麓の山荘に着いた途端に、あの首に襲われたのだった。
襲撃が一段落したので、子どもたち5人は別室で休んでいた。
オレの息子が一番年長なので、寝ている子らを見守っている筈だ。
オレたち父親は、善後策を考えるべく、この山荘の一角にある喫茶スペースで協議しているのだ。

「まだ来るのかな」
「一応、全部倒したけどね」
「襲ってきた首は7つだったのに、あれがもし1人の女の怨念で出来ていたとしたら、本当に畏れ入る」

ここでリュウイチが何かに気付いたように声を上げる。
「あの女の顔。どっかで見たことがあるような気がするな」
「やめてくれよ。俺たちの誰かに因縁がある女だったなら、余計に気色悪いぞ」
リュウイチが自分のリュックを手元に引き寄せる。
「俺は高校の時の写真を持って来た。俺たちは高校・大学と同窓生だったんだから、父親の昔のことを子供らに教えてやろうと思ってな」
リュウイチがアルバムを拡げた。
「ほら。ここに」
リュウイチが指し示したのは高校のスポーツ祭の時の写真だった。

「この女、誰?お前たちは憶えているか」
「いや」
「同級生にこんな女なんて居たかな」
リュウイチがさらにページをめくった。
「うわ。ここにも居やがる。こっちにも。お前たちも何か昔のアルバムとか持って来てる?」
「ああ。各々が何か思い出の品を持って来る約束だろ」

オレも自分の鞄を膝の上に乗せ、中を検めた。
やはり、アルバムが入っていた。
「うひゃあ。あの女がまともにこっちを向いて写ってら。全然気づかなかった」
その女は、どの写真でもカメラを持つ者の方を向き、いわゆるカメラ目線で写っていた。
「もしかして、かなり前から、俺たちにつきまとっていたんじゃね?」
「そりゃ気持ち悪いね。実際に戦ったあの化け物よりも怖ろしい」
「そうだな。理由が分からないもの」

怪談の類なら、例えば、「昔、オレたちがいじめた女子が自殺して、その怨念が現れた」とか何とか、因縁を語るところだろうが、オレたちにはそういった記憶が一切ないのだ。
「一体、何を思ってこの世に迷い出ているんだろ」
理由がまったく思い当たらないところが、逆に信憑性が高くて怖ろしい。
「恨まれるあて」がまったくないのだ。

「こういうのが本物の怨霊だよな」
「たぶんね。恨む理由と、祟る相手が理屈に合わない」
ここで皆が声を揃える。
「死ねば物を考える頭が無くなるからだ」
だから、相手構わず、自分と波長の合う者に取りついて、祟りをなすのだ。

「そういうのって、普通は一定の場所にしゃがんでいて、たまたま祟る相手が近くに来た時に乗っかるもんだろ。それが、俺たちにずっとつきまとっていたというのは、いかにも解せないな」
「後を尾いて来られるのは、頭で考えられるってことを意味する。おかしいよな」
皆は不思議がるが、しかし、オレにはなんとなく想像が付いた。
「そりゃ、死霊怨霊の類ではなくて、あの女は生霊だってことだよ」
「そっか。悪霊の祟りと聞くと、つい反射的に死霊を思い浮かべるが、生霊もあるんだったな」
「生霊で、そいつを放った相手がまだ生きているから、こんな具合になってるってことだ」

なるほど。
オレたちに妄執を抱き、生霊を放った女は、まだこの世にいる。
だから沢山に分裂したり、倒しても倒しても出て来るわけだ。
「しかし、相手が生霊だと、こいつを祓うのはやっかいだぞ」
「悪霊祓いでは落とせないからな。そいつが生きている限り、繰り返し出て来る」
困ったことに、ひとつの魂から生霊が生まれ出た瞬間に、元の魂とは独立した存在になってしまう。
だから、ひと度魂から飛び出てしまえば、元の人間でも祟りを鎮めることが出来なくなる。

「生霊か。面倒くさいことになったな」
「どうやって根を断てばいいんだ?」
「さっき言った通り、生霊はお祓いの類では対処できない。生霊の飢えが満たされるか、それとも、元の人間を殺すかの2通りだけだろう」
ここでリュウイチが訊き返す。
「生霊の元魂(もとだま)は、自分の生霊がこうやって他人を苦しめていることすら知らないかもしれない。そいつを殺しちまうのか」
「邪な欲望を抱いて、生霊を放った時点で、もはや業苦を背負うべき宿命なんだよ。人を呪わば穴二つで、生霊を飛ばすのは、人に呪いを掛けたのと違いが無い」
「因果は必ず自分に帰って来るわけだ」

「しかし、あの女を探し出すのはやっかいだな」
「いや、アルバムに載っているんだから、高校の関係者だろ」
「早く見つけなきゃな」
そして、早くオレたちで殺しに行かないと。

だが、それは容易ではないことを、オレはすぐに思い知らされた。
荷物を片づけるため、オレは立ち上がろうとした。
すると、ついさっきまでオレの膝の上に乗せていたオレの鞄が、今は女の頭に替わっていた。
女は2つの眼を見開き、無表情にオレのことを見ていた。

ここで覚醒。

この女が、自分たちの誰かに恨みを抱いているわけではなく、ただ「わけもなく祟っている」ところが、何とも言えず気色悪かったです。