日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第333夜 幽霊前線

夜中にこの夢を見て、途中でがばっと起きました。

眼を開くと、オレはちゃぶ台の前に座っていた。
ちゃぶ台とは名ばかりで、ビール箱の上に段ボールを敷いただけのものだ。
台の上にはカップヌードルが置いてある。

「そっか。オレは離婚して独り暮らしをしているのか」
離婚した妻に慰謝料と養育費を払うため、家や財産の総てを渡し、オレは独りでこのアパートの狭い部屋で暮らしているのだ。
子どもが大人になるまでの分を早く払い終えたいので、今のオレはさらに収入の大半を支払いに充てていた。
自分の暮らしは大変だが、あと数か月で総てを前払い出来るのだ。
あともう少し。
負債がゼロになれば、そこから先はプラスに転じるだけだ。

ちゃぶ台の向こう側には小さなテレビが置いてある。
今はニュースの時間帯だった。
アナウンサーが神妙な面持ちでニュースを読み上げている。

「ついに前線は関東に達しました。停滞する恐れがありますので、ご注意ください」

今は春だ。「前線」と言えば「梅の開花前線」とか「桜前線」くらいしか思い当らないが・・・。

「幽霊前線は東京都練馬区、中野区、杉並区、吉祥寺市、三鷹市に留まる見込みです。所によって被害が発生すると思われますので、十分にご注意ください」

「幽霊前線?なんだそりゃ」
すぐには思い出せない。
オレは持病のせいで、時々意識を失うが、覚醒した後に、過去の記憶が消失していることがあるのだ。

おぼろげながら思い出せることもある。
確か3か月くらい前のことだな。
富士山の噴火口を調べに行ったヤツが、地面から扉が顔を出しているのを見つけた。
重い鉄の扉だ。
その扉は今にも破裂しそうなくらい膨れていた。
研究者が扉のノブに触った瞬間、ピンが折れるような音がして扉がはじけ飛んだ。

実はその扉は地獄の蓋だった。
地獄が亡者で溢れたので、蓋がはじけ飛んでしまったのだ。
蓋が取れてしまえば、この世と地獄とが繋がってしまう。
実際、その穴から亡者が多数這い出して来た。

亡者は肉体を持たないので、霧や霞みたいな存在だ。
物理的な力を及ぼすことは出来ないが、声を出すことが出来る。
また何千、何万の亡者が力を合わせると、何がしかの圧力をもたらすことが出来た。
地獄の亡者たちは、凝り固まった大気の塊みたいな存在になったのだ。

こうして、今は「寒気団」、「暖気団」の他に「霊気団」が天気予報でもリポートされるようになった。
「霊気団」はいわゆる亡者や幽霊の塊なのだが、その気団の境目が「幽霊前線」だった。

幽霊前線には、それを経験したものでなければ分からない怖ろしさがある。
1つ2つの霊でも十分に気持ち悪いのに、前線には何万もの幽霊や亡者が立つ。
一番分かりやすいのは、百鬼夜行の図を思い浮かべることだ。
異形の亡者たちが何万も列をなして移動するさまは、本当に恐ろしい。

ここでオレはちゃぶ台の横に目をやった。
何やら封筒が置いてあった。
カップ麺にお湯を注いだ時に、郵便が届いたので、入り口まで受け取りに行き、戻って来た所で発作が出たらしい。
オレは封筒を開いて中を見た。
中の書類は、特許権の承認状だった。
どうやらオレが申請していた実用新案が認可されたらしい。

なになに。
「この世の幽霊、地獄の亡者、魑魅魍魎の被害を免れるための防護装置」と書いてある。
図面を見ると、四角い箱で人が1人ちょうど入れるくらいの大きさだった。
え。なんだこれ。棺桶じゃん。
それなら、実物がこの部屋の中にある。
部屋の隅に四角い箱が置いてあったのだ。
「あれはオレが作った棺桶だったか」
その棺桶には、様々なお札が貼ってあった。
我ながらあきれて、ため息が出た。
「バカな発明品だな。こんなもの。何の役に立つ」

ちょうどこの時、テレビから「幽霊前線」の現地リポートが流れてきた。
今度のには映像も付いていた。
「こりゃスゴイ」
画面には空高くそそり立つ壁が映っている。
その壁は何百万の裸の亡者で出来ていた。
「なんと怖ろしい」

しかし、もしかすると、この棺桶に入っていれば、あの亡者たちの影響を受けずにやり過ごせるのも知れないぞ。
オレは昔から霊感があり、直感もズバズバ当たるほうだった。
「こりゃ、オレはついにお宝を掘り当てたのかも」
オレは発明家だが、これまで一度も大儲けしたことが無い。
有名な発明家のドクター中松氏とは違い、革新的な発明には巡り合わなかったのだ。

だが、今のこの瞬間からオレの運命が変わった。
「いやはや。地獄の亡者さま、幽霊さま。よくぞ出て来てくれました」
これでオレも程なく数千億円の財をなすことが出来るだろう。

ここで覚醒。

実際に観た夢とはかなり変えてあります。
同じのは「幽霊前線」という言葉だけです。
夢の方はかなりホラー味の強い内容でした。
うまく調整すると、面白そうな話になるかもしれません。