日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第377夜 誰かが見ている

土曜の夕食後に、少し居眠りをした時に観た夢です。

オレは35歳。都心にあるシンクタンクの研究員だ。
この仕事は体力勝負で、労働時間が怖ろしく長い。
見掛けは頭脳労働だが、実質的には肉体労働と変わりなく、納期には毎日、14時間近く働くし、土日も出勤だ。残業手当は無く、すべて出来高(売上)を基準にした年棒制度になっている。

朝の出勤は一応フレックスで、ちょうど通勤ラッシュが終わった頃、だいたい10時前後に出勤する。
しかし、仕事が終わるのは夜中の2時3時。
その時間は電車も無いので、以前はタクシーで帰ったり、サウナに泊まったりしていた。
だが、やはり疲れるので、通勤が面倒だからと、会社の近くに引っ越した。
今は仕事が終わると、歩いて帰れる場所に住んでいる。

同期は十人くらいいたが、仕事のキツさに嫌気がさして、大半が辞めて行った。
大学の非常勤講師に潜り込めればまだ良いが、違う業種ではただの中途採用なので、居心地が悪い筈だが、働き過ぎで死ぬよりましだということだ。

仕事の納期は3月年度末と半期9月なので、その前の数か月は忙殺される。
オレは毎日、2時まで仕事をして、歩いて帰る途中で1杯だけ飲む。
都心なので、看板を落としてからも、馴染みの客なら入れてくれる店がいくらでもある。
仕事終わりには脳がマヒしているので、酒を飲み、お姉ちゃんに軽口を叩かないとすんなり寝られない。
その生活が長く続いたので、結婚生活は2年しかもたなかった。
まあ、それも人生だ。
早く離婚すれば、慰謝料も少ないし、子どもがいないので養育費も払わなくて良い。

しかし、最近、なんだか違和感を覚えるようになっている。
誰かがオレのことを見ているような気がするのだ。
さすがに職場の中ではそんなことはないが、外に出ると、なぜか視線を感じる。
最初は、道を歩いている時で、それなら実際に回りに人が居るので、見られていても不思議ではない。
オレの会社では政府の扱う情報を処理しているので、内偵に来るヤツも多い。

ところが、徐々に視線を感じる場所が拡がって来た。
街に出て、本屋に寄ったり、飯屋に寄ったりする時はもちろんだが、自分のマンションのエントランスや廊下でも、誰かがオレを見ているような気がする。
どうにも胸騒ぎがするので、時々、後ろを振り返るようになった。
家に帰るべく道を歩いている時に、予告なく後ろを振り返るのだ。
しかし、やはりオレの後ろには誰もいない。

「もっと気配を消さなくては、悟られてしまう」
そこで、何度も練習をして、振り返る素振りや前触れが出ないように工夫した。
ある時、夜中の2時に道を歩いている時に、やはり後ろに気配を感じた。
この時は足音まで聞こえた。
その人の気配は、オレに「つかず離れず」と言うより、徐々に間合いを詰めるように後ろをついて来る。
そこで、オレは頃合いを見計らって、バッと振り向いた。
「きゃあ!」
オレの後ろに居たのは、若い女性だった。
都心と言っても、オレの会社から家までは大半がビジネス街で、夜中には人気が無くなる。
その女性は暗い道を1人で歩くのが怖かったので、オレから離れないように歩いていたのだ。
これじゃあ、オレの方がよっぽど不審者だ。

この変な感覚は、日を追うごとに強くなる。
最近では家の中でも、誰かがオレを見ているように感じる。
「オレは精神に異常をきたしつつあるのか」
だんだん、自分に自信が無くなって来る。

今日は久々に、朝早く会社に出ることにした。
いつもは2キロくらいの道を歩いて行くのだが、たまにはバスに乗ろう。
そう考えて、バス停に向かった。
バス停に着き、列に並ぶ。
すると程なく、いつもの通り、誰かの視線を感じ始めた。
「また始まったな」
そろそろ、精神科に行き、相談した方が良さそうだ。

すると、突然、オレの周りから人が居なくなった。
皆がオレのことを避けて、遠ざかったのだ。
「何だよ」
これって、オレの変な感覚と何か関係があるのか。

「何ですか?」
オレが問い掛けても、誰も返事をしない。
「何だよ。オレの何が気に入らないんだよ!」
厳しい口調で、オレの正面にいたOLを問い詰める。
すると、その女ははっきりと「怖れ」の表情を顔に出しながら、オレのことを指差した。
正確には、その女が指差していたのは、オレの頭の上だ。
「上なのか?」
オレは自分の頭上を見上げた。

そこで、オレは初めて、ずっとオレのことを見ていた視線の正体を知った。
オレの上には、背中に翼の生えた人間らしき生き物が舞っていた。
それが天使ならともかく、そいつは全身が灰色で、コウモリみたいな羽を付けている。
「これって、悪魔か死神だよな」

そいつは、オレが過労死するのを見越して、オレに取り憑いていたのだった。
「ああ。ここでオレは死ぬんだな」
そう思うと同時に、目の前がさあっと暗くなった。

ここで覚醒。