日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第393夜 熊野権現

水曜の夜から木曜早朝にかけて、繰り返し観た夢です。

夢の中の私は、自分自身。
まだ30歳くらいの姿と自意識を持っている。

父が連絡を寄こす。
「夜中に、前の本店に誰かが出入りしているらしい。近所の人から報せがあった。お前が行って、本当かどうか確かめてくれないか」
「前の本店」とは、かつての自宅兼店舗で、今は倉庫として使っている家だ。20年前から店も自宅も別のところに移っていたのだ。

私はその家に行き、ひと晩かふた晩泊まってみることにした。
倉庫なので、水は出るが、ガスは止めてある。
見張りが泊まっていることを悟られないように、2階の一番奥の部屋で寝ることにした。

夜中になり、確かにごとごとと音が聞こえる。
別の棟の2階からだった。
私はそおっと1階に降り、事務所のドアを開けた。
向かい側には廊下があり、その奥に店舗の上に向かう階段が続いている。
その階段から、5、6人の人が降りて来た。

皆、男たちで、一様に前掛けのような物を身に着けている。
がやがやと何ごとかを話しながら、外に出て行こうとしていた。
「こらあ。人の家で何をしている」
私が怒鳴り付けると、皆が後ろを振り返った。
頑丈そうな5、6人が暴れ出したら、少し面倒かとも思ったが、咄嗟に怒鳴っていたのだ。

男たちは、意外にも快活そうな笑みを浮かべている。
「俺たちはそこの2階で、長いこと待っていたが、誰も来ないし、酒もつまみも出ない。仕方なく、もう帰ろうと思っていたところだよ」
「ここは前は店だったけれど、今は倉庫だ。昼の間には物を出し入れするが、夜は誰も来ないよ。当たり前だよ」
「この店を営業していたのは20年くらいで、店を閉めてから同じくらい経つ。そろそろ俺たちは出て行っても良いだろ」

ここで男たちの視線が一点に集まった。
全員が店舗の2階に続く階段の方を見ている。
「何だろ」
男たちの視線の先を見ると、そこに女が立っていた。
白い服を着た女が、階段の中ほどまで降りて来ていた。

薄暗い階段に、白服の女がじっと佇んでいる。
30歳になるかならないかくらいの女で、これまで見たことの無い顔だ。
私はひと目で、その女がこの世の者ではないことを見取った。
「これは絶対に生きている人間ではない」
額から、どっと脂汗が流れ出す。

女は数秒間、私や男たちを眺めると、ゆっくりと背中を向け、もう一度階段を上って行こうとする。
その女の背中に男の1人が声を掛けた。
「行かないのですか」
女が足を止め、こっちを振り返る。
女は男たちに小さく首を振った。

この世の者ではないのに、幽霊とは違う。
悪霊なら、悪意や怨念を送ってくるものだが、この女はそんな類の悪しき心を発してはいなかった。
しかし、ひたすらおそろしい。
身を固くして、女の背中を見守るだけだ。

女が階段の上に姿を消すと、少し楽になった。
ここで、周りを見回すと、さっきいた男たちは姿を消していた。
「一体、どこに行ったんだろ?」

私はあまりに戦慄したので、住居の方に戻ると、入り口のすぐ横にある応接間の方に入り、長椅子の上に倒れ込んだ。
そしてそのまま、寝込んでしまった。

ここで一旦覚醒。
なんだかわからないが、おそろしい夢だったなと、びびりながらトイレに行く。
あの女は絶対に生きた人間じゃなかったし。
トイレから戻り、居間の床に座ると、すぐにまた寝入ってしまった。
そして、先ほどの夢の続きを観始めた。

長椅子で寝ていると、車が停まる音がした。
ここで私は目を醒ました。
窓を見ると、もう朝だった。
「6時ごろかな」
玄関のドアが開き、誰かが入って来る。
入って来たのは、兄だった。
「お。来てたのか」
「オヤジに頼まれて、昨夜はここに泊まったが、少し驚いた」
すると、家の奥の方で、「がたん」と音がした。
「誰かいるのか」
「いや。俺の他に生身の人間はいないよ」
この世のものじゃないのはいるかもしれん。

「祖父ちゃんの部屋のほうじゃないか」
祖父はかなり前に死んだが、部屋はそのままにしてあった。
2人で廊下に出ると、確かに奥の部屋の方で音がした。
「昨日の夜の感じでは、生きている人ではなかったよ」
「幽霊か」
「よく分からない」
念のため、死霊祓いのお呪いを唱える。
兄は携帯電話を出し、奥の廊下に向かってシャッターを続けて切った。

「本当だ。白い玉が沢山出ている。ほら」
廊下の奥には、たくさんの白い玉が飛び交っていた。
オーブ現象だ。

そうしているうちに、奥の部屋の音がピタッと止んだ。
それと同時に、頭の中で声が響いた。
「私は熊野山の者です。この地を守って来たのは私です。お前がこの地を離れても、それは変わりません。どこに行っても、私のことをきちんと祀るようにしてください。そうすれば、必ず私がお前のことを守ります」
廊下の奥に、急に煙が立ったかと思うと、一瞬だけ女の姿が見えた。
昨夜と同じ女だった。

女の冷徹な表情は昨夜と変わらない。
「神さまか、神さまの使いだったのか」
なるほど。幽霊の類なら、もはや慣れているので、どうと言うことも無いが、昨夜感じたおそれは、「畏れ」で、神聖なものに対する畏敬の念だったのだ。

「畏まりました。この後も忘れず、日々精進いたします」
そう念じると、再び煙が立ち、女の姿は消えてなくなった。

ここで覚醒。

百日詣の後も参拝を続けていますが、何らかの修行になっているのだろうと思います。
そう言えば、「かつては修験者だったことがあるようだ」と言われたことがあります。