土曜日の夕方、テレビの前で寝入っていました。
その時に観た夢です。
我に返ると、薄明かりの中にいた。
周りの景色がぼんやり見える。
オレはどこか荒れ野のような場所にいるらしい。
ここは岩だらけの土地で、草が1本も生えていない。
荒れ野というより砂漠だな。
後ろを振り返ると、地面にうっすらと筋が見える。
道とは言えないが、誰かが通った跡だ。
たぶん、オレもここを歩いて来たのだろう。
もう一度、前に向き直る。
進行方向の先には、砂丘のような丘が見える。
その丘の向こうから、さわさわという音が聞こえていた。
「あれは水の音か?」
そう言えば、喉が渇いている。
飲める水ならいいけどな。
水の音がする方に歩き出した。
ゆっくりと丘を登る。
しかし、途中で足を止めた。
「ここ。前にも来たことがあるよな」
いつだっけ?
頭が働かず、しばらくの間立ち止まって考える。
どうしても思い出せない。
「何だか。このまま進んではダメだって気がするな」
何でだろ。
もう一度歩き出す。
丘の頂上はもうすぐだ。
足が砂に入り込んで、うまく歩けない。
「こういうのは、子どもの頃は『ふどる』と言ったよな」
今は使わなくなった方言を思い出す。
ここで不意に記憶が甦った。
「ダメじゃん。この先は川だよ」
しかもその川は、三途の川っていうヤツだ。そこを越えたら「あの世」だが、水に触れたりしてもいけないところだ。
水に触れると、生きていた時の総ての記憶が洗い流されてしまう。
その川を越えず、総てを忘れたら、あの世に行けない幽霊になってしまう。
ああ、ヤバいヤバい。
危うく、あの世に向かうところだった。
気がついてよかったよな。ほっとして胸を撫で下ろす。
しかし、冷静になってみると、やはり岡の向こう側のことが気になる。
「確か、川のように見えるのは、オレ自身がそういう風にイメージを作り上げているからだよな」
人によっては、この場所の感じ方は違う。
海のように感じる人もいれば、小川だと思う人もいる。
川ではなくトンネルを通る人もいるし、それら総てのこともある。
要するに、外形的な姿は、ひとり1人のイメージがもたらす産物だ。
しかし、それら全部の共通点は、そこを越えたらもはや「あの世」で、もはや戻っては来られないことだ。
「近寄ったらダメだけど、見てみたいよな」
そう思った瞬間に、体が空中に浮き始めた。
ゆっくりと、およそ1分間に50造らいの速さで、上に浮いて行く。
視線が上がり、じきに岡の頂上が見え、次第にその向こう側が視野に入って来た。
丘の向こうは海だった。
「イケネ」
オレはここで、もう1つ重要なことを思い出した。
三途の川を渡ると、向こう岸では空中に浮かぶ。それから、空にある雲のどれかに吸収されてしまうのだ。
その雲は、いわゆる「霊団」というヤツで、記憶や心情を共有する魂の集まりだった。
その雲に入ることが、すなわち「成仏する」ということなのだ。
「川を越えるどころか、これじゃあ、オレは一気にあの世に入ろうとしてるだろうに」
危ない危ない。
すぐにオレは平泳ぎみたいに両手両足を漕いで、地面に降りた。
ここは不味いよ。
早いとこ、元の世界に戻らねば。
大慌てで、元来た道を引き返す。
ここで覚醒。
いやはや。死神には誘惑されないと見たのか、新手の勧誘でした。
こりゃ、今年はよくよく気を付けないと、あっさりと「あの世」に案内されてしまいそうです。