14日の午前2時半ごろに観ていた夢です。
我に返ると、どこか知らない場所に立っている。
ぐるっと周囲を見回すと、どこもかしこも赤茶けた岩と石だらけ。
「まるで火星みたいな岩石砂漠だ」
ここで、はっと気が付く。
「ここは、心臓が止まってから最初に行くところだ。そうなると」
オレは死んだってことだな。
いつどうやって死んだんだろ。
思い出そうとするが、どうしても思い出せない。
「心臓が止まろうとする時、ある瞬間にばたっと止まるわけじゃない」
まずは、鼓動が不規則になる。すなわち不整脈のひどいヤツだ。
その後、脈の間隔が開くようになり、心停止に至る。
心臓が止まろうとする瞬間には、本人はトンネルの中にいるような気分になる。
真っ暗で、長いトンネルだ。
その先に光が見えるので、大概のヤツはそっちに行く。暗いところから逃れ出たいからだ。
トンネルの外に出ると、火星みたいな岩石砂漠が待っている。
「それがすなわちここだってことだ」
オレは何度か心停止を経験しているから、この砂漠にも来たことがある。
もう少し先に行くと、小川が流れている筈で、それを越えると「あの世」だ。
川を渡ると、もうこちら側には戻って来られない。
もちろん、総ては心象風景だ。
どう見えるかは、人によって異なる筈だ。
トンネルや砂漠も、昔、誰かの体験を読んだことがあるから、それが反映されているのかもしれん。
「だが、どうであれ、それがオレの前の現実だ」
他の者がどう思うか、考えるかなどは、オレには関係が無い。
合理的な考えなど、ここから先は何の役にも立たないのだ。
「しかし、これからどうすればいいんだろ」
幸いなことに、生きていた頃の記憶がオレにはほとんど残っていない。
と、思った瞬間、オレは自分が膝丈まで観ずに使っていることに気付いた。
「うわ。もう川に入っているじゃないか」
なるほど。それで生前の記憶が失われたんだな。
この川、すなわち「三途の川」だって、イメージの産物だ。
ここで洗われることで、総ての記憶が押し流される。
それでまっさらな元の自分に戻り、仲間たちの元に帰るのだ。
「参ったな。ここから先はどうすればいいんだろ」
足が何か岩のようなものに行き当たる。
とりあえず、これで休もう。
そう考えると同時に、水面に岩が出ていることに気付いた。
ちょうど1人が座れるくらいの大きさだ。
ひとまずオレはその岩に腰かけた。
「ここには何回くらい来たんだろ」
数え切れないくらいの回数だよな。
毎回、反省することばかりだった筈だが、それもここを渡った瞬間に忘れてしまう。
「問題は、これからどうするかということだ」
岸に引き返しても、自分が出て来た穴が見つからなければ、川原を彷徨うだけだ。
それって、いわゆる幽霊になるってことだ。
「うう」と声を出したり、写真に写り込んで、誰かを怖がらせるのが関の山だ。
自分が誰かも分からないまま、この世とあの世の境目を徘徊する。
「じゃあ、この川を渡ってしまおうか」
そうすれば、また最初からやり直し。
時が来て、状況が整った時に、別の人間に生まれ替わる。
それも悪くない。
だが、それはどっちの方向だろ。
最初は二十辰らいの川だと思ったのに、今は見渡す限り大海原に変わっている。
前も後ろも同じだ。
「参ったな。完全に立ち往生だ」
ふう、とため息を吐く。
すると、その時、遠くの方から人の声がした。
「オトーサン」
あれ。誰だろ。
「オトーサン。しっかりして」
ああ。女房だな。でも、その女房って誰のことだろ。
声のした方に顔を向けると、その方角には岸が出来ていた。
三十辰四十辰らい渡れば、そっちの岸に行き着けそう。
岸の先には、前に見た岩石砂漠が広がっている。
じっと眺めていると、砂漠の中にある砂利の山のひとつがぐずぐずと崩れ始めた。
あっと言う間に、暗い穴が口を開けた。
「ああ。あそこに行けば良いんだな」
でもどうやって?
そう考えると、川の中にポツンポツンと岩が水面に突きだしてきた。
片足を載せられるくらいの大きさの岩が岸まで続く。
「これを渡って行けと言う意味だよな」
その岩を頼りに、ひょいひょいと岸まで歩いた。
穴はすぐ近くだ。
暗い穴に入ろうとすると、奥の方から「プ。プ。プ」という音が響いてきた。
何だろ?
すぐに気が付く。
「ああ。あれって心電図の音だな」
誰が付けられてんだろ。
ま、いっか。
穴に入り、反対側の光を目指して歩き始める。
何となく、手足の先が暖かくなってきたような気がする。
ここで覚醒。