日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第414夜 胸に岩を置かれた女

2日の夜に観た夢です。

夢の中の「オレ」は刑事。名前は野中だ。
元は背広組だったが、左遷に次ぐ左遷で、一介の刑事になった。
ケチのつき始めは、オレが付き合った女が本部長の姪だったことだ。
都合の悪いことに、その女は既婚者で、オレが浮気相手。
まさかその女の伯父がオレの一番上の上司だとは思わないから付き合ったわけだが、さすがに分かってしまえばその気も失せる。
「そろそろ別れて欲しい」と言い出したら、女の方が逆切れして、大騒ぎになった。
父親は大銀行の役員で、伯父が本部長。
力関係は明白だろ。
「亭主持ちだとは知らなかった」
そんな言い訳をしても、結局、割を食うのは立場の弱いオレの方だ。
オレは田舎の街に回された。
さすがにやることが無く、毎日書類の整理をして暮らしている。

上役の方はオレのことを辞めさせるつもりは毛頭なく、閑職に置いてイビリ倒すことを日課にしている。
ウンザリだが、オレの方も辞めるつもりは無い。
いずれ本部長だって引退するし、そのうち風向きが変わることもある。

田舎暮らしにも慣れたある日のことだ。
突然大きな地震が来た。
その地震で、この街の郊外にある山が崩れてしまった。
茂岩山という名の山だが、標高数百メートル程度なので、被害はほとんどない。
ところが、電話が掛かりっぱなしになった。
「すぐに来て見てくれ」と言う。

オレは他の警察官2人と連れだって、山を見に行った。
通報の通り、山の斜面が大きくえぐれている。
「野中さん。あれ」
警察官が指差す先には、大きな穴が開いている。
「中に岩室があったんだな」
ちょうど2階の高さくらいの穴がぽっかりと口を開けていた。

近くの人がオレたちを案内する。
「見てください。ほらあそこ」
住民が示した先をライトで照らすと、人が横たわっていた。
女だった。
女は薄いワンピースみたいな服を着ていたが、岩室の中心に横たわっている。
しかも、胸の上には50損擁?らいの岩が載っていた。
「中に入ったら、岩が崩れて、その下敷きになったのでしょうか」
住民が首を振る。
「いえ。そんな筈はありませんよ。入ったのは私が最初です。それに、こんな女の人はこの辺では見たことがありません」
近くに寄って、オレは女の死体を検分してみた。

「本当だな。これは新しい死体ではない。半分はミイラ化している。肌に弾力があり、新しく見えるけれど、実際には古いものだな」
「と言うことは、ここが岩で塞がれていた時もこの中にあったということですね」
「そういう事になる」
「でも、それじゃあ、何百年もの間、この中にあったことになりますよ。この山の中にこんな空洞があるなんて話は聞いたことが無いですもの」

見た所、女はまだ若い時に死んだようだ。
肌もピンと張っている。

「でも、じゃあなんでこんな事態になったんでしょ。この胸の岩はどうなったんですかね」
オレには何となく状況が分かった。
「置いたんだよ」
「え」
「先にこの女の死体を寝かせて置いて、その上にこの岩を下ろしたんだろうな。静かにに置いてあるから、胸が潰れていない。それに女が生きていたことを示すような跡がまるで残っていない」
訳が分からない話だ。
女は既に死んでいるのだから、重しを載せてどうするのだろう。

生きている人間なら話は別だ。
例えば十キロくらいの重さなら、持ち上げるのは簡単だ。スイカに毛が生えた程度の重さしかない。
ところが、心臓の上に置き、5分も経つと、まったく動けなくなる。
心臓の周りの血流が阻害されるためだ。
これが30キロなら、ほんの数分で、大の男でも動くのが難しくなる。
「この女の胸に乗っているのは、80キロから百キロはあるだろう。なら絶対に動けない」

ここで連れの警察官が口を開く。
「殺人事件でもなんでもないのなら、もう少し状況をよく見るために、この岩を下ろしてみませんか」
ま、何百年前の死体なら、もはや事件ではない。史跡か遺跡か、いずれにせよ文化財だろ。
「重いけど、やってみるか」
この場には4人いるから、百キロの岩でも、これを脇に動かすことは出来る。

オレたちは、すぐに岩に手を掛け、女から下ろした。
「ふう。さすがに腰に来るなあ」
「休憩しましょう」
オレたちは、女から少し離れた所に腰を下ろし、息が整うのを待つことにした。

「胸の上に岩を載せると動けなくなるから、意図的に置いたってのはどうだろ」
逆説的な思考をしてみるわけだ。
「でも、それじゃあ、女が起きるのを防ぐためってことですよね。おかしいですよ。もう死んでいたのに」
「女は死んでいたけど、また起きるかもしれないから岩を置く、という流れだな」
「ははは。ホラーですかあ。吸血鬼とかゾンビとか、あるいは悪魔とか」
警察官2人がくすくすと笑いだす。

でも、オレはまったく笑えなかった。
なぜなら、オレのすぐ後ろで寝ている女の死体が「すう」と音を立てて、息を吐いたからだ。
なんだか、最近は、オレにとって最悪のことばかり起きやがるぞ。

ここで覚醒。