◎夢の話 第429夜 強盗
夢の中の「オレ」は、システム開発の営業をしている。
ある県で業務用ソフトの入札があったので、オレの会社はそれに参加した。
この入札では必ずオレの会社が落札する。
何故なら、想定落札額2千万のところを、オレの会社は「1円」で応札するからだ。
「1円」では事実上タダということだが、こういう話にはもちろん裏がある。
この県ではPC端末の買い替え時期が迫っているが、オレの会社のソフトはある特定の機器を使わないとうまく機能しない。すなわち、実際に買い換える時には、ソフトに適合した機種を選ぶことになる。要するに抱き合わせの商売だな。
ここの県庁の端末を新しくするには、少なくとも30億掛かる。出張所まで広げればさらにその何倍かだ。それなら2千万なんて値引きの範囲内だ。
数十億プラス2千万という規模なのだが、見た目は合法で、かつお買い得。
実質的には、随意契約と同じなのだが、誰も文句を付けられない。
県庁の上級職だって、もちろん、そのことは承知している。
現地で仲間と祝勝会を開いたので、家に戻ったのは、夜中の1時だった。
オレの家は都心の一等地にある。家全体が真っ白だから、この地域でも目立つつくりだ。
家族は既に寝ているのか、家の灯りは消えている。
オレは自分の鍵を使って、家に入った。
家の中は静まり返っている。
「ああ。疲れた」
オレは上着を脱ぐと、居間のソファに腰を下ろした。
部屋は冷え冷えとしていた。
「随分、早い時間から寝てるんだな」
立ち上がって、台所に行き、冷蔵庫からビールを出す。
酒が醒めたので、また少し飲み直して、寝るためだ。
居間に戻って来ると、窓の方で「カタン・カタン」と音がした。
窓の一部が開いており、ブラインドが風に揺れて、音を立てていたのだ。
「この季節に、窓を開けて寝てるのか?」
ちょっと寒いよな。
窓の方に近付くと、ブラインドの向こう側に何やら人の気配がある。
気のせいではなく、人影のシルエットが見えていた。
ぎょっとして、オレは思わず固まった。
ブラインドが音を立てていたのは、風のせいではなく、その人影が頭をブラインドにコツンコツンと当てていたからだった。
目を凝らしてみると、坊主頭の男だってことがよく分かる。
男は何をするでもなく、ブラインドの外側に立っている。
「なんだ。幽霊か」
オレには強い霊感がある。このため、生きている人間と幽霊がまったく同じように目で見えるのだ。もちろん、他人に話せば、「頭がおかしい」と思われてしまうから、滅多に口外することは無い。
本当に霊感を持つ者は、そのことを隠して暮らしているのだ。
オレはもう一度台所に行き、モップを持って戻って来た。
そのモップの柄の先をブラインドの間に差し込んで、幽霊の影を押してやる。
「おい。そんなところに立っていたって、誰もお前のことを助けてはくれない。どこかに行け」
人間と同じように、幽霊だって、他人に小突かれるのを嫌う。接点を極力持たないようにすれば、幽霊は仕方なく離れて行く。
ガタンと音がした。
今度は台所の方だ。
「え。さっきオレは行ったばかりなのに」
もう一度台所に行くと、勝手口の扉が開いていた。
「おかしいな。さっきは閉まってたのに」
まるで、誰かがたった今、ここから出て行ったような感じがする。
何だか嫌な予感がする。
オレは台所から居間に戻り、廊下に出た。
玄関から2階に向かう階段のところに、靴の痕が残っている。
「誰かが土足でここから2階に上がったんだ」
その誰かは2階で何かをして、下に降りて来た。そこにオレが帰って来たのだ。
オレが今と台所を行ったり来たりする間、その誰かは物陰に隠れていたが、オレの隙を見て、この家を出た。
きっとそうに違いない。
階段の下から2階を見上げると、真っ暗だった。
オレは何となく、オレの妻や子供たちが、もう死んでいるような気がした。
ここで覚醒。
体調が悪いせいなのか、観る夢観る夢が悪夢になっています。