日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

女が嘆く

病院から戻った翌日のこと。
家人が起きて来ると、「昨日の夜は眠れなかった」とこぼします。

「なんだか、女の声でぶつぶつ言うのが聞こえたから、うるさくて眠れなかったよ」

そこで、家人をからかいました。
「自分の鼾じゃないのか」

「そんなことはないよ。後悔というか恨み言というか、いつまでもぶつぶつ愚痴愚痴と騒ぐので本当に困ったわ」

家人には「気にするなよ」と言いましたが、こういうのは典型的な幽霊の出方ですね。
この手の声や音は、はっきりと聞こえます。
頭の中だけでなく、物理的に発生しており、家人の隣にいれば、同じように聞こえただろうと思います。

家人は風邪を引いていたようで、「体調が悪かった」との由です。
体調が悪かったり、体が半分眠っているようなときには、あちら側に近づくのか、この手のことが起こりやすいようです。

幾度かここに書いたと思いますが、若い頃に、寮のベッドで寝ている時に同じようなことが起きました。
人の声がするので、眠りから覚めました。
すると、窓の外の方から、ぶつぶつと呟く声が聞こえます。
「オレはどうして※※※だったんだよう」
「なんでこんなことに」
呟きと書きましたが、どちらかと言えば声高で、「叫ぶ」一歩手前くらいです。

視線を窓に向けると、あろうことか、磨りガラスの向こう側に男の顔のシルエットが映っていました。
その瞬間、私は恐怖に震えました。
だって、私の部屋は三階で、かつ窓には桟がなかったからです。
すなわち、その男は空中に浮いていた、ということになります。

「これは人ではない。ありえない」
すっかり腰が抜けてしまったので、部屋のドアまで這って行きました。

よほど怖ろしい思いをしましたが、いざ通り過ぎてしまえば、どうということもありません。
夜は寝ずに勉強することにして、その年を終えました。

どうもその寮は不吉な出来事が続いたようで、何年か後には無くなったようです。