夢の話 第486夜 闇の中で
4日の朝8時に観た夢です。
体がぶるっと震え、眼を醒ました。
瞼を開くが、何も見えない。
周囲は完全な漆黒の闇だった。
「何だ、ここは」
サスペンスドラマなんかで、眠っている間に地中に埋められた人の話があったが、そんな状況なのか。
手を足の方に伸ばしてみると、ズボンに触れた。
脛の周りを探ったが、どこにも接していなかった。
「横になっているわけじゃない。立ってるんだな」
しばらくすると、眼が慣れて来る。
依然として暗闇の中だが、ものの気配が分かるようになってきた。
シルエットまではいかず、その手前くらいだな。
じっとしてはいられないが、さりとて足を踏み出すのも怖い。
一歩先に穴があっても、まるで分からないからだ。
足を踏み出した先が穴だったら、ストンとそこに落ちてしまう。
その穴に落ちたら、何万年経っても落ち続けているような予感がある。
だが、何となく俺の前には小道があるような気がする。
それも、一本だけじゃない。五六本くらいの道が四方に広がっているようだ。
「ま、このままここにはいられないしな」
一方向を選び、足を踏み出した。
「やはり、先に進めるな」
そこで、その方向に歩き出した。
すると、遠くの方にポッと灯りが灯った。
小指の先くらいの小さな赤い光だった。
「こっちに来いと言っているような感じだな」
しかし、光が見え始めたのは、俺が足を踏み出したのとほとんど同時だ。足を踏み出したから、合図をして寄こしたのかもしれん。
そこで、俺は後ろを振り返ってみた。
すると、そっちの方にも灯りが見える。こっちは幾分青白いような光り方だった。
「ふうん。どっちに行けば良いんだろ」
しばし考えさせられてしまう。
「ここをしくじるとエライことになりそうだ」
その時、俺の横、七八辰らいのところで人の気配がした。
「ううん」
さすがにびっくりする。
夜道を歩いていて、突然、藪の中で「ホウ」とか「ヒイ」とか言う鳥か小動物の声が聞こえる事があるが、そんな時と同じだ。
軽くひょいと跳び上がりたくなるくらいの驚き方だ。
だが、その声は動物の声ではなく人間だった。
それも、五六歳の女の子だ。
「ねえ。そっちに誰かいるの」
俺は努めて優しい声を出すように心掛けた。
「だれ?」
女の子の方が俺に訊いて来る。
「大人の男だけど、ここは暗いからどうやら迷子になったようだ」
俺の声を聞き、テンテンと軽い足音が近寄って来た。
やはり小さな女の子だった。
「君はどうしてこんなとこにいるの?」
「わかんない」
「俺も全然分からないんだよ。何故ここにいるのか。どうやれば家に帰れるのか。君はいったい、何時からここにいるの?」
「わかんない」
「仕方ないね。じゃあ、小父さんと一緒にお家に帰ろう。大人と一緒なら怖くないだろ」
「ウン」
「僕の名前は五郎。あなたのお名前は何て言うの?」
「※△■○」
女の子の名前はよく聞き取れなかった。
別の声が女の子と重なるように響いたからだ。
「うおおおおおおお」
獣のような咆哮だった。
女の子がいた場所のずっと後ろの方から、何者かが吠える声が聞こえて来たのだ。
「何だ?」
差し迫る危険を感じ、俺は女の子の手を引き寄せようとした。
ところが、手が届くところにその子がいない。
「おおい。どこに行ったの」
「コワい。怖いよお」
女の子は俺から離れたところにいた。
「待ってな。僕と一緒に行こう」
すると、再び獣の叫び声が響く。
今度はさっきよりも近くだ。
「嫌だ。助けて」
女の子が走って遠ざかる気配がある。
「ちょっと待って」
女の子が向かったのは、最初の赤い光の方だった。
あの光がその子にも見えていたのだ。
ところが、俺には、そっちの方角はあまり良くないような気がしていた。
「おおい。そっちじゃない。反対の方だよ」
俺は声を限りに叫んだが、その子の気配はその場からすっかり消えていた。
「参ったな」
だが、考えている場合ではない。
俺の周りには複数の獣の息吹が迫っていた。
「こりゃ不味い」
大慌てで、反対側の方に向きを変え、音を立てないように小走りで走った。
ほとんど暗闇なので、あいつらが感じ取っているのは音や気配だろう。
たぶん、だけどな。
少し獣たちから離れられたので、そこから俺は全速力で走り始めた。
「青い光のところに出れば」
おそらく、俺が意識を失う直前の場所に帰れる。
たぶん、そこは病院の救急治療室だろう。
ここで覚醒。
30歳くらいの時に、一度心臓が止まったことがありますが、それに関連付けた内容のように感じます。
「これを加えろ」と言われているのかもしれません。
それでは、この夢の中の「女の子」は「お名前は何て言うの?」という問いに、「みち」と答えることになりますね。