◎不調法者
家人の書類手続きを手伝ったのですが、しかし家人は文句ばかり言います。
そこで、「お前が最初に口にすべきことは、『ありがとう』からだ」と小言を言ったのです。
そこで、はっと気付きます。
「あ。オレもそうだ。まずは感謝することからだな」
その後数日して、病院に行き、ベッドに横たわっている時のことです。
月に一度、栄養士さんが枕元まで来て、食事(病院めし)について説明してくれるのですが、私はその栄養士さんが苦手でした。
娘くらいの年頃の小柄な可愛い女性なのですが、仕事熱心なあまり、顔を近寄せて話してくれます。それが、横になっている私の顔までわずか20センチくらいの位置だったりするのです。
正直、ちょっと近すぎ。
このため、話が早く終わるように、ぶっきらぼうに対応していました。
この時、「まずは感謝する」ことを思い出し、栄養士さんが去り際に「いつもどうも有難うね」と告げました。
その後、病院めしを食べに食堂に行くと、部屋の隅にその栄養士さんが座っていました。
患者一人ずつの栄養状態を確認するために、資料を予習していたのです。
邪魔をしないように、自分の席に座り、食事を始めたのですが、この時には書籍の契約のことについて考えていました。
今は契約の話し合いの最中で、それが済んだら原稿を書き直し、版下の作成に向かいます。
すると、唐突に栄養士さんが話し掛けてきました。
「髭がお似合いですね。ステキです」
お愛想です。
おそらく、患者たちは自分自身が生き残ることで頭が一杯なので、「有難う」とお礼を言う人もほとんどいない。
これは先ほどの私の「ありがとう」に対する返礼です。
私が愚かなのは、本のことに気を取られるあまり、ぶっきらぼうに答えてしまうところです。
「いや。私など生きているだけで良いのですよ」
冷たい口調で、取り付く島もありません。
栄養士さんは気まずくなったのか、そそくさと荷物をまとめ、ナースステーションの方に去って行きました。
「イケネ。またやっちまった」
ぶっきらぼうで愛想が無いので、一人しか居ない女性の看護師にも敬遠されているうえに、またこの調子です。
いい歳こいて何をやっているんだか。
偏屈なのは仕方が無いとしても、不調法ぶりは心がけて改善する必要があるようです。