日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第574夜 里帰り

夢の話 第574夜 里帰り
 13日の午前1時に観た夢です。

 気が付くと郷里の家の前に立っていた。
 「随分久し振りだなあ」
 しかし、ここが自分の家だということは分かるが、しかし、自分の記憶にあるそれとは、だいぶ違うような気がした。
 第一、家のつくりがやたらでかい。
 部屋数が十五室以上あるのではないだろうか。
 「お袋の実家みたいなつくりだよな」
 玄関口に向かうと、田舎の商店みたいなガラス戸になっていた。
 中は事務室だ。
 「御免ください」
 声を掛けると、中から若者が出て来た。17歳くらいの少年だ。
 どこか悲しそうな表情をしている。
 「君はここの家の人かい?」
 「はい」
 「どうしたんだい。お盆だというのに、家の前でかがり火も焚いていないし、家の中も真っ暗だ。仏壇に灯明を上げて、ご先祖をお祀りしなくてはならないよ」
 少年は一層険しい表情になった。
 「でも、家族も親族も皆、死んでしまったのです。僕には誰一人身寄りが居ません。居間はお盆ですが、誰も訪問客が来ないことが分かっているので、灯りも点けていませんでした」
 この少年が寂しそうな顔をしていたのはそのせいか。

 「ねえ。お盆は親戚のためにあるわけじゃないよ。君のご家族が亡くなってしまったなら、それこそその人たちのために、玄関を開け、灯りを点けて待っていなくては。今日はその人たちが君のために家に戻って来る日なんだよ」
 「え。僕のためにですか」
「そうだよ。死ねば、血の繋がりには意味がなくなる。魂だけの存在になるからね。しかし、一度は縁あって家族となり親族となったのだから、一年に一度、亡くなった者は元の家に戻って来ることが出来る。それがこの日だ。家を懐かしんで来るわけじゃなく、生き残っている子や孫を気遣ってやって来るんだよ。だから、きちんと迎えてあげれば、きっと君のことを励まし、助けてくれる。お金や財産と言った、現世の幸運を与えてくれるわけではないが、心に安寧をもたらしてくれる。それに、君が死んだ時に、きちんとあの世にいけるように導いてもくれるんだよ」
 「そうなんですか」
 少年が顔を上げて、オレのことを見た。
 「君は心細く、生きていくのがつらいと思っているかもしれないが、皆、君のことを見守っているんだよ。だから、すぐに家中に灯りをつけ、玄関を開けなさい。目には見えず、声も聞こえないけれど、君のためにたくさんの人たちが来てくれている。その人たちを迎え入れ、線香をあげて中に入れてあげるのだよ」
 この言葉を言い終わると同時に、隣の部屋から物音が響いた。
 畳の上に誰かが座る音だ。
 「誰か知らない者がああいう音を立てたら、君は驚き、気持ち悪く思うだろうけれど、あれは君の味方だ。あの世で君を見守り、あちら側に君を迎え入れる人たちで、いずれ君自身の一部となる人たちなんだよ。そう思えば全然怖くないだろ」
 俺の言葉に同意するように、隣の部屋では「はは」「ほほ」という笑い声が響いた。
 少年は目を丸くしてオレのことを見詰めている。

 「分かったかい。ならすぐに灯りを点けて来て。仏壇がなければ、座卓の上に蝋燭とお線香を立てればいいよ。じゃあ、雨戸や扉を開けて、出入りが出来るようにしてね」
 少年は頷き、雨戸を開くために、他の部屋に向かった。
 すぐに、家中から「からから」と戸板が開く音が響く。
 オレは玄関の板間の上がり端に座り、少年や他の者の足音に耳を傾けながら考えた。
 「ところで、あの子は誰なんだろ。オレの孫かひ孫?それとも・・・」
 オレが死んでから五十年は経つ。
 だから、今のこの世がどうなっているのか、オレにはとんと分からなくなっていた。
 ここで覚醒。

 自分の血縁のところに行ってみようと思ったら、少年が一人ぼっちでいたので、励ます夢でした。その少年の先祖ではなく、ただの通りすがりだったかもしれませんが、死んだ者にとってはどちらでも構いません。