日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第569夜 イナカ町で

夢の話 第569夜 イナカ町で
 2日の午前3時に観た夢です。

 頭がカクンと揺れて、オレは目を覚ました。
 居眠りをしていたのか。
 顔を上げると、窓の外に田舎の景色が広がる。
 この場合の「イナカ」とは、オレが育ったところではなくて、どこか地方の、人のあまり住んでいない地域という意味だ。
 雪に覆われた森や田畑。遠くの方には海も見えていた。
ガタゴトと椅子が揺れる。オレが座っていたのは、列車のボックス席で、4人掛けの窓側の席に1人で座っていた。

 列車が停まる。無人駅だ。
 「オオイソハラ」駅と書いてある。
 「あ。オレが降りるのはここだ」
 大慌てで、列車から降りる。
 人の居ない改札口を出ると、老人とその孫らしき少年が待っていた。

 「こんにちは」
 少年が挨拶をする。頬が少し赤く、中学校の2年生くらいの風貌だ。
 「君が権田原君だね」
 「はい」
 「じゃあ、案内して貰おうか」
 「では、こちらにどうぞ」

 夢の中の「オレ」はコンサルタントで、意思決定を導くのを仕事にしていた
 ある時、たまたま権田原少年と知り合ったのだが、権田原少年の村では、村おこしの活動が滞っていると聞いた。
若者だけでなく、壮年層までもが外に出て行ってしまい、村には年寄りと孫たちしかいない。村おこしを進めようにも、どうにも先を見出せないというのだ。
 オレは金持ちからは高額な報酬をぼったくるが、こういうケースでは金を貰わない。
 権田原君は真面目な少年で、少年らしく夢を語るところが気に入ったのだ。
 仕事で、この地方に用事が出来たから、オレは帰路、途中下車して、この村に立ち寄ることにしたのだ。

 「先生。ボクの村には産業らしい産業がありません。農業と言っても、自分の家で食べるくらいを作るくらいだし、漁業もたかが知れています。これでは、ボクらもこの村を出て行かねばなりません。ボクはここが好きで、ここで暮らして行きたいから、何とか仕事を作りたいのです」
 権田原少年は同級生5人と研究会を立ち上げ、特産品を点検することにした。
 そこで、自分たちの村おこしの方向を考えようとしたが、そこは中学生なので、そこで止まってしまった。
 権田原少年はオレの本を読んでいたから、オレに手紙を書いた。
 今どきの少年なのに、メールとかをいきなりぽんと送って来るのではなく、丁寧な手紙を書いて寄こした。
 それが気に入って、オレはその少年に会ってみることにした。
 なお、少年がメールを使わなかったのは、実際のところ、「住んでいたのが携帯の繋がらない山の中だった」という理由だった。これは少し笑える。

 村の公民館に着くと、婆さんたちが待っていた。
 「遠くからよくいらして下さいました」
 6人の婆さんたちが、曲がった腰をさらに深く曲げた。
 「何もありませんが、まずは座って、食べてくんしょ」
 座卓の上には、重箱が置いてある。客をもてなすために、自分たちでこしらえたんだな。
 オレはそれを見て、少しドキッとした。
 つい昨日のことだが、ここから40キロ離れた街で仕事をした。
 そこでも地元の人がもてなしてくれたのだが、それが手打ち蕎麦だった。
 家庭の主婦たちが、わざわざオレのために、十割蕎麦を打ってくれたのだ。
 だが、普段から蕎麦を打っているわけではなく、オレのために特別にそうした。
 そういう場合、そのご馳走を作るのに慣れていないから、やたら不味いことがある。
 その蕎麦も粉を噛むような味気なさだったが、「不味い」と言うわけにも行かず、オレは黙って食った。
 オレがやっとのことで食い終わると、一人の主婦がすぐさまお替りを持ってくれた。
 トホホ。

 その経験があったから、オレは目の前の重箱の蓋を開けるのを、ほんの少し躊躇った。
 婆さんの中の中心人物、すなわち「中心ババア」が進み出て、オレに声を掛けた。
 「ここには何も無いのですが、召し上がって下さい。お弁当は※※※と△△△の炊き込みご飯に、牛蒡のてんぷら、アサリの佃煮です」
 なるほど。大したものは採れないのだな。
 蓋を開くと、やはり殺風景な中身だった。
 (まさか、これを食って当たったりしないだろうな。)
 しかし、具は牛蒡天とアサリの佃煮が1個、大根の漬物だけだ。あとは、何だか分からない茶色の飯だから、食あたりになる可能性は少ない。
 唯一危なそうなのは、アサリだが、よく煮込んだものと見えて、真っ黒だった。
 大丈夫だろうが、やはりゲンナリする。

 「何もないのですが、どうぞ」
 どうしてイナカの人は「何もない」って言い方をするんだろうな。
 最大限のもてなしをするのに、口では「何もない」と言う。
 そんなことをチラっと考えた。

 (これでも、この人たちが誠意を持って作ってくれたんだから、ありがたく食べないとな。)
 とりあえず、何だか分からない茶色のご飯を口に入れてみた。
 「ありゃ」
 もう一度、ご飯を口に運ぶ。
 エレー美味い。
 オレは黙ったまま、そのご飯を口に運んだ。
 
 重箱の半分を食べたところで、オレは中心ババアに尋ねた。
 「これ。何の炊き込みご飯でしたっけ?」
 もう進行方向は決まった。
 ひとつ1つの運命が開くのには、めぐり合わせが大切だ。
 ここの人たちと、この素材。それとオレが力を合わせれば、きっと上手く行く。

 「ところで、※※※と△△△って、いったいどういうものなんですか」
 ここで覚醒。

 力強く「きっと上手く行く」と言った時に、周囲の顔がぱあっと明るくなったのです。
 やはり、人間に必要なものは「希望」なのだと思い知りました。