日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第588夜 骨

夢の話 第588夜 骨
 5月1日の午前5時に観た夢です。

 中ノ滝橋を渡る途中で、欄干から下を眺めた。
 小さな橋で、5メートル下には川が流れている。
 思ったより綺麗な流れだった。
 オレは何となく、その流れに向かって手を合わせ、拝んだ。
 すると、オレの後ろから声が響いた。
 「ねえ、あんた」
 振り返ると、老人が立っていた。
 七十歳の上下くらいだな。

 「どうして、ここで手を合わせたんだい?」
 「いや。深い理由はありません。何となく、です」
 「何となく、何なの?」
 老人はじっとオレの顔を見ている。
 仕方ない。
 「ここから誰かが落ちて死んだような気がしたのです」
 「え」
 老人はふた呼吸の間、黙って考えていたが、再び口を開いた。
 「どんな人なの?その落ちた人って」
 しつこいな。何か思うところがあり、それが片付くまで放してくれない雰囲気だ。
 「若い男の人です。二十三歳くらい」
 「その人がここから飛び込んだってこと?」
 「違いますね。背中を押されて落ちたのです。この橋はあまり高くないから、川に落ちれば助かりそうなものですが、水面からすぐ下に岩があります。そこに頭をぶつけたから、それで死んだのです。ま、妄想の類ですけどね」
 この話を聞き、老人の目が丸くなった。
 「あんた。霊感師か何かなの?」
 「いいえ。違います」
 「じゃあ、ここのことを知っていた、とか」
 「いえ。ここに来るのは初めてです」
 ここで老人がひとつ深い息を吐いた。
 「ここで若者が死んだのは確かで、実際にそんなことがあった。ところが自殺なのか他殺なのかが分からなくて、不審死扱いのまま放置されている」
 「そうなんですか」
 「事件として発表はされていないから、知っている人は少ない。それを知る者は、犯人か霊感師だ。だが、君は犯人じゃない。その事件は17年前のことだから、君はまだ子どもだった筈だ。ところで、その若者の背中を押したのは誰かということまで、君は分かるのか」
 「女ですね」
 「女?」
 「そう。女です」
 「その若者が付き合っていた女なの?そいつのことを調べたけど、アリバイがあった」
 ははあ。この老人は警察関係者だったのか。引退したが、昔の事件のことが忘れられずにいるわけだ。
 「同級生ですが、その男と付き合ってはいません。男が一切、振り向いてくれないので、思い余って背中を押したのです。どうしても自分のものにしたかったわけですね」
 「なるほど。関わりが薄いから捜査の対象にはならなかったわけだ」
 老人は納得したのか、二度三度と頷いている。

 「ちょっと、君に見て欲しいものがあるのだが」
 「何でしょう」
 「骨だよ。この先に池があるが、そこから上がった骨だ。その池は酸性で、骨は半ば溶けていたから、こまかいことが分からないのだが、人骨だって調べはついている。ちょっと警察署に寄って、その骨を見てくれんかね」
 「でも、私には大したことは出来ませんよ」
 オレは多少、勘の鋭いところはあるが、霊感師でもなければ、スピリチュアル・カウンセラーでもない。ま、いずれにせよ、妄想を語る人種だが。
 「この世で最高の霊感師は、19世紀の英国にいた人です。その人は、過去、現在、未来に起きた出来事を悉く言い当てたと聞きますが、調べてみると、当たっていたのは40%くらいだったそうです。人類史上最高の人でそうなのですから、オレみたいな普通人では、何も分かりません」
 すると、老人は力強く首を横に振った。筋張って皺だらけの首元がやたら目に付く。
 「いや。現に君はここで起きたことを言い当てているじゃないか。不確かなことで構わないから、何かヒントをくれれば助かる」
 オレがここに来た理由は「退屈しのぎ」だ。たまたま出張で隣町に来たのだが、1日だけ時間が空いた。そこで、ここの国立公園の中を散策しようと思っていたわけだ。
 「それなら良いですよ。何もすることがないですし」

 「私はここの署に長く居たから話が通る。さっき連絡したら、署長はいなかったが、資料を見せてくれるそうだ」
「よほどそのお骨のことが気になっていたのですね」
 「十五年前に発見された骨だが、どうにも気になっていたんだよ。何故かは分からんがね」
 タクシーが警察署に着く。
 窓口で挨拶をすると、すぐに奥に通された。この老人は、よほど名刑事だったわけだ。
 随分と顔が利く。

 オレが通された部屋は、取調べ用の部屋ではなく、来客用の面談室だった。
 椅子に座ると、すぐに、署員が箱を持って来た。
 「これです」
 箱を開くと、ひと掴みの骨片が入っていた。
 「これでよく人骨だと分かりましたね」
 「足の踵の骨があったからね」
 人の骨には直接触りたくないが、この場合は致し方ない。
 オレはその骨を指で摘んで持ち上げた。
 すると、たちまち頭の中に妄想が沸き上がって来た。
 「この子は中学1年生でした。家出をして、駅の前に座っていたのです。心細いのですが、家にいるよりはまし。母親の再婚相手と折り合いが悪く、険悪な状態でした」
 元刑事が身を乗り出す。
 「で、何で死んだんだ」
 「私服の警察官がやってきて、手帳を見せた。車に乗せられると、山の中に連れて行かれて、そこで・・・」
 「え。犯人は警察官だったのか」
 元刑事が膝を叩く。
 「なるほど。それなら捜査のことを熟知しているな」
 「非番の時に、ターミナル駅の前で子どもを拾って殺していたのです」
 「え。一人じゃないのか?」
「他にも何人かいますね。それを火口近くの酸性池に捨てた。骨が溶けてしまい、跡形も残りません」

 それを聞くと、元刑事は勢いよく立ち上がり、署員2人を呼んで来た。
 「この人は本物の霊媒だ。骨を見ただけで、死んだ時の状況が分かるようだぞ」
 刑事たちは小さく頷いたが、もちろん、本気にしてはいない。
 元刑事は興奮しているので、そのことには気付いていなかった。
 ま、こういう時の扱いには慣れている。
 「なあ、君。何か犯人について分かることはないのかね。どういうヤツだとか、名前とかだな」
 「手帳を開くと、そこに名前が載っていますね」
 「何て言うヤツ?」
 オレは頭の中で、手帳を開く。
 そこには「斑鳩」と書いてあった。
 すかさず、オレは心の中で「読めねえ」と呟いた。

 「ちょっと分かりませんね」
 元刑事に告げると、刑事は残念そうに溜め息を吐いた。
 「ま、仕方ないね。無理やり連れて来てすまなかった。でも、糸口は見つかったようだ。じゃあ、また何かあったら、よろしく頼みます」
 この老人も「元刑事」という立場だし、今の署内で大きな顔はし難い。
 そこで、この辺で警察署を出ることにした。
 オレたちは署員に案内されて、玄関口に向かった。
 玄関を出ようとした時、外から人が入って来た。
 見送りの署員が、そのごつい体格の男に声を掛けた。
「あ、イカルガ署長。今日は立花さんがお見えでした。こちらはそのお連れの方です」
 
 「斑鳩署長。それだ」
 オレが口にした言葉を、元刑事のオヤジさんが耳に留める。
 「おい。まさか」
 オヤジさんがオレの目を凝視する。
 ここでオレは前に向き直る。その瞬間、オレは自分の第六感に確信を持った。
 
 「子どもたちを殺していたのは、斑鳩署長、あなたですね。その証拠に、ほら、貴方の後ろに7人の子ども達がついています」
 子どもたちは、行くべきところが分からず、自分を殺した男の後ろにゾロゾロとつき従っていたのだった。
 ここで覚醒。

 オチがつく前に目が覚めてしまいました。
 おかげで脈絡の無い夢になっています。