◎夢の話 第591夜 千里眼
6日の夜11時に観た短い夢です。
知人より、蔵の整理を頼まれた。
蔵の中にある骨董類が、果たして価値のある品かがらくたかを仕分けする仕事だった。
オレはそういうことが嫌いではないから、依頼を引き受けた。
ま、この手の作業は知識と経験がいるから、バイトとしてはかなり良い方の報酬が貰える。
戸棚の中を点検していると、古い桐の箱が出て来た。
軽くゆすってみたら、カタカタと音がする。
「何だろう。壷かな」
紐を解き、箱の蓋を開いた。
中には、きっちり封印のされた甕が入っていた。
その脇には、紙を折ったものが落ちている。
まずは折り紙を拡げた。
「効能書きか」
冒頭には「千里眼薬」と書いてある。
「薬酒に浸けたる千里眼。ひと嗅ぎすれば、人の懐の中が見られる。ひと口この酒を飲めば、壁の向こうを見渡せる。ひと度薬種を食べれば、千里先の物事が見られるものなり」
「そいつは凄い。この世で最も価値のあるものは、今や情報だ。服の下が見えたり、壁の向こうが見えるのなら、その能力の使いようによっては、すぐに億万長者だ」
ここで「億万長者」という古臭い言い回しに、思わず苦笑を漏らす。
オレは大慌てで、甕の封印を切り、蓋を取ってみた。
中には、黒っぽい水が入っている。
匂いをかぐと、確かにアルコール臭さが漂って来る。
「本当に酒だ」
その瞬間、酒の中身が見えた。
「ぎゃあ。ここに入っているのは目玉じゃないか」
大きな目玉で、もし人間ならかなりの大男だ。それとも鯨か。
「おいおい。これを食えって言うのか」
効能書きは本物で、オレは匂いを嗅いだ瞬間から、黒い酒の中身を見通せるようになっていた。視線を上げると、蔵にある箪笥や長押の中に入っているものが手に取るように分かる。
箪笥の奥の「隠し」の中には、小判が十六枚眠っている。
長押には、先々代が集めた昔のエッチな写真が大量に仕舞ってあった。
「こりゃ本物だ。でも・・・」
すぐさま、さまざまな光景が見えて来た。
この目玉は鬼の目玉だ。
鬼はこの家で生まれた異形の者で、色んなことを言い当てた。
ところが、あまりにその能力が高すぎて、鬼は周囲から疎まれるようになってしまった。
夫や妻が浮気していることを見抜いたし、人に知られたくない悪事や秘め事を、この鬼が悉く言い当てたせいだ。
ある時、この鬼が匿われていた離れが焼き討ちに遭い、鬼は殺されてしまった。
そして、鬼のこの眼玉だけがのこされたというわけだ。
「匂いを嗅いだだけで、過去に起きたことが全部見える。もし、この酒を口にしたり、目玉を齧ったりしたら、いったいどんなことが起きるんだろう」
何だか、空恐ろしい。
オレは動くことが出来ず、じっとその目玉を見詰める。
鬼の目玉は、オレの心を試すように、じっとオレの目を見上げていた。
ここで覚醒。
握りこぶしくらいの大きさの目玉なので、「食うのはさすがに無理だ」と思いました。