◎夢の話 第592夜 村人
7日の午前1時に観た短い夢です。
所用があり、山の中の小さな村に行くことになった。
その村には、旅館が1軒しかないから、そこに宿を取った。
宿の前に立ち、建物を眺めると、それは百年も前に建てられたような木作りの旅籠だった。
玄関を入ると、三和土のすぐ前が帳場だった。
女将が顔を上げる。
その顔を見て、オレはドキッとした。
女将が歯を剥き出していたからだ。
(まるで、気の触れた犬みたいな顔つきだな。あれでは、口を閉じることも出来まい。)
オレの思った通りで、女将は口の端からダラダラと唾液を垂れ流していた。
(まあ、驚いたりしたら気の毒だ。ここは素知らぬ顔をしていよう。)
女将が口を開く。と言っても、最初から口は開いていたのだが。
「お泊りは1泊ですか」
「いえ。三日ほどお願いしたいと思っています」
女将が下を向いて、何やら帳簿に書き入れ始めた。
するとそこに、建物の奥から男が出て来た。
(使用人だな。)
男が女将の傍らに立つと、オレは腹のうちで叫び声を上げた。
その男が歯を剥き出していたからだ。
(おいおい。どいつもこいつも犬みたいに口を開けている。もしかして、この村の人は全員がこんな調子なんだろうか。)
夜中に暗がりで行き合わせたら、さぞ驚くことだろう。
階段からトントンと足音が響く。
軽い足音だから、仲居なのだろう。
オレは、その仲居が目の前の二人と同じように、口を開き歯を剥き出していると確信した。
ここで覚醒。
夢らしい、如何にも不条理な世界になっています。
もう少し突き抜けてくれれば、怪異譚に化けると思います。