日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第422夜 廃屋にて

 28日の午前4時頃に見ていた夢です。

 オレは45歳。名は神崎と言う。
 オレは25年ぶりに郷里に帰った。
 進学で東京に出たのだが、両親が交通事故で死んでしまい、それ以後ずっと帰らなかったのだ。この場合、親が居ないのだから「帰る」はおかしい。もはや、別の場所の住人だから「訪れる」だな。
 両親の家は親戚に貸していたが、年数が経ったので、土地もろとも売却することにした。
 その登記の手続きのために、故郷に帰ることにしたのだ。

 家の近くに行くと、既に解体工事が進んでおり、がれきの山になっていた。
 まあ、25年間、遠ざかっていた訳だから、愛着も無い。
 オレは周囲をぐるっと見て回って、ホテルに向かうことにした。
 裏山辺りには、子供の頃の思い出が残っているから、さすがに懐かしい。 

「あれ?あそこは何だっけ」
 遠くの方に、壊れかけた家が見える。
 裏山のもうひとつ向こうの山の斜面に、半壊した建物があったのだ。
「ああ。あれはお化け屋敷だ」
 ここでオレは昔を思い出した。
 あそこは、桐山修三郎が住んでいた家だ。
「桐山事件」と言えば、誰でも思い出すだろ。ペンションの主人が客を12人も殺した事件だ。桐山はペンションの経営者で、鉄のモニュメントを作る芸術家だった。
 どちらかと言えば、芸術の方が本業で、ペンションは生計を得る手段だ。
 この男は、毎月最後の月曜に、ペンションに泊まった最後の客を殺していた。
 殺人が月末だったのは、なあに、支払いがあったという事情だろう。
 あのペンションは、こんな片田舎にはまるで似つかわしくないような立派な作りだったからな。
 この殺人犯は、これと見込んだ客の食事に睡眠薬を混ぜ眠らせた。
 薬を入れたのは朝食だ。朝食を食べ、荷物を取りに部屋に戻った頃には、もはや歩けなくなっている。朝には、多くの客が「これから出発する」などと連絡しているから、その後も、ペンションに留まっているとは思われない。
 桐山は、ペンションのさらに裏手の林に、古い貨車を埋め、それを地下室として使っていた。正確には、払下げの貨車を買い、そこに置いていたのだが、土砂崩れで埋まってしまい、上手い具合に地下室になったのだ。
 この男は眠らせた客が男だったらすぐに殺し、女だったらしばらくの間この地下室に入れて慰み者にした。警察が行方不明者の捜索に来そうなときは、もちろん、すぐに殺して処分したらしい。
 鉄を細工する技術があるので、車なども1日2日で解体出来たらしい。
 鉄の造形を作る工房に、バラバラになった車体の部品が転がって居ても、誰1人不審には思わない。実際、スクラップ工場から運んだ鉄材が山積みになっていたことだろう。

 オレは廃墟になった「お化け屋敷」を見に行くことにした。
 オレたち子どもは、桐山の事件を知ると、早速そのペンションのことをそう呼んでいたのだ。
 ビデオでも撮影して置けば、後で役に立つかもしれないしな。
 都合の良いことに、オレの今の仕事は映像作家だ。こう言えば聞こえは良いが、作り物の心霊ビデオを売る商売だ。
 あの手のビデオは、全部、オレたちみたいな人間が作っている。

 建物はやはりすっかり崩れていた。
 鉄骨が露わになり、コンクリが割れ始めている。
 鉄骨を中に入れると、そこから錆びて、コンクリにひびが入ってしまう。
 海岸から持って来た砂利をそのまま使えば、もっと早い。たった5、6年でぐずぐずだ。
「見た目は立派だったが、やはり手を抜いてあったか」
 崩れた柱の下敷きにならんように気を付けねば。
 建物はもはや鉄骨がむき出しで、今にも屋根が落ちて来そうだった。
 「ここは、さっと終わらせる方が良さそうだ。オレががれきに埋まったんじゃあ、笑えなくなる」
 オレは建物を出て、殺人現場だった地下室の方に向かう事にした。
 入り口も半ばは土砂に埋もれていたが、幸い山砂だけだったので、容易に探し当てることが出来た。
 オレはカメラを回しながら、元は貨物車だった部屋の中に入った。

 部屋の中には、何も無かった。
「ま、当たり前だな。証拠は持ち出されただろうし、長年の間放置されたから、紙や木で出来た物は朽ち果てただろ」
 ライトを当てても、がらんとした暗がりが見えるだけだ。
「ナイフとか鉞なんかが落ちていれば良かったのにな」
仕方ない。程ほどにして、外に出よう。
 そうして、オレは出口の方に体を向けた。
 すると、そのオレの動きで床に負荷が掛かったらしい。
 床の真ん中らへんが、がさっと音を立てて陥没した。
 その真上に居たオレは、まともに穴に落ち、したたかに腰を打った。
「イテテテ。何だよ」 
 
 ライトを拾い、周りを見ると、どうやらこの地下室の底は二重底になっていたらしい。
 最初の部屋よりも天井は低いが、もう1つ部屋があった。正確には地下2階だな。
 周りを見渡すと、昔の長押のような大きさの箱が幾つか置いてあった。
「警察はこの部屋の事を調べなかったんだろうか」
 まあ、分からなかったと言うことだな。最初に、この地下室を作り、その上にコンクリを打って、廃棄貨物車を置いたのだ。
「全部この部屋を隠すためだったのだ」
 箱は全部で6つだった。箱の周りには、どういうわけか、鉄材や黒曜石の塊がばらばらと置いてある。足を進める度に、そいつらを蹴飛ばすが、そうすると素材同士がぶつかって、時折、パチンと火花が散った。鉄と黒曜石じゃあ、火打石の材料だから当たり前だ。
オレは最初の1つの箱を開けて、中を見た。
 箱の中には、腐った紙幣とか、貴金属が山ほど入っていた。
 桐山は旅客から奪った金品をここに隠していたのだ。
 底の方には、作り掛けの金や銀のインゴットまで置いてあった。
「桐山にとっては、溶接や冶金はお手の物だ。ジュエリーなんかは溶かして延べ棒にしたわけだ」
 しかし、桐山が殺したのは12人だった筈だ。
 12人から奪ったにしては、箱の中身が多すぎる。
「ってことは、実際は12人だけじゃ無かったんだな」
 ひと桁違うくらい、人を殺しているかもしれん。
 おそらくその犠牲者は別の箱の中に収められていることだろう。
 蓋を開ければ、おそらく骨の山だろ。

 オレは携帯を取り出して、警察に電話しようとした。
 しかし、ボタンを押そうとした、その瞬間、手が止まる。
 「ここは地下だし、しかも山の中だ。携帯が繋がる訳が無いだろ」
 それに、お宝がどれだけあるか、調べてからでも遅くは無い。
 もう一度、周りを見ると、部屋の奥の方に小さい箱が置かれていた。
 船箪笥みたいな形の箱だ。
「ああ。あれだな。オレなら、処理が終わった金はあそこに入れる」
 その箱の近くに寄り、軽く蹴飛ばしてみる。
 ずっしりと重い感覚だった。
「人が誰1人来ない廃屋に、大金と百人を超えるお骨がある。警察に連絡をして、全部引き取って貰うか、あるいは金だけ頂いて元通りに塞いで帰るかと聞かれれば・・・」
答えはひとつだよな。
 船箪笥を開くと、中には金のインゴットが仰山入っていた。
「桐山修三郎はサイコキラーと思われていたが、そうでは無かったかもしれんな。なぜなら人殺しだけでなく、金にもこんなに興味を持っている」
 具合の良いことに、この部屋の隅には葡萄籠が転がっていた。
 オレは箱から金のインゴットを拾い、この葡萄籠に入れた。
 ひとつ1つは小さいが、20個もあれば数千万分にはなるだろ。

 籠入れが終わったので、オレは何の気なしに船箪笥を蹴飛ばしてひっくり返した。
 すると、その箱があった床に、小さい扉が付いていた。
「隠し扉か。人殺しめ。まだ何かを隠していた訳だ」
 錠が付いていたが、バールを差し込むと、すぐに壊れた。
 ただちに指を取っ手に入れ、蓋を引き開けた。

 すると、蓋が開いた瞬間、「シュウシュウ」と音が出て、ガスが噴き出して来た。
 「う。プロパンじゃないか。この下にはボンベがあったのか」
 こりゃまたどうしてだ?
 ほんの3秒で、その答えが頭に浮かんだ。
「こりゃ、オレみたいにお宝を横取りしようとするヤツが来た時のためだ」
地下2階の密室にガスが充満すれば、外に出る前に、中毒で倒れてしまう。 
 しかし、走る訳には行かない。
 あの桐山がごろごろと部屋の中に鉄や黒曜石を置いたのは、侵入者を弄ぶためだった。
 「ちくしょう。やられたな」
 ゆっくり動けば中毒死、急いで火花を散らせばガス爆発だ。
 シリアルキラーは、オレが考えた以上にマニアックな野郎だった。
 
オレはここで自問した。
「さて神崎。お前はここでどうするわけだよ」
 
 ここで覚醒。

 私が夢の中で、現実とはまったく違う別の人格になっているのは何故か。
 なるほど。神崎は私の小説の登場人物です。その人物になって考える習慣があるので、夢の中でも、そのキャラとして行動するのだろうと思います。