さらにまた続き。
次に目が醒めると、オレはどこかの部屋の中にいた。
ホテル?という割には安普請だ。
「どこだろ。ここ」
部屋にはベッドが1つで、あとはバス・トイレだけだ。
外に出ると、この部屋と同じような部屋が横に並んでいた。
「モーテルだな」
すると、このモーテルの建物の裏の方から、声が聞こえた。
「ノーマン。ノーマン!」
オレって、ノーマンという名前なのか。
すぐに思い出す。
「ノーマン・ベイツ」がオレの名前で、ここは「ベイツ・モーテル」だ。
となると、オレが今いるのは「サイコ」なんだな。
でも、オレの母親はとっくの昔に死んでおり、オレ自身がその母親を演じていたはずだ。
じゃあ、オレを呼ぶあの声はいったい誰なんだ?
モーテルの裏の階段を上がり、自宅の方に向かう。
相変わらず、屋根が尖った建物だった。
「サイコ」も50回と言わず、見てるんだよな。
DVDはアメリカで売ってるヤツまで揃ってら。
玄関のドアを開いて、中に入る。
2階に上がって、母親の部屋に向かうと、その部屋にはオリビア・ハッセイがいた。
元は布施夫人だったあのハッセイだ。
「となると、これは最初の方ではなく、『サイコ4』ということだ」
ちょっとがっくり。
「サイコ」は3までは面白かったが、4ではネタが尽きた感がある。
その途端に、ついさっきまでアンソニー・パーキンスだったオレは少年の姿に変わった。
ハッセーは母親で、いずれオレはこの母を殺すことになる。
面倒くさいので、オレは今ここで殺すことにした。
少年の姿のままではやり難いから、ひとまず大人のノーマン・ベイツに戻って、それから母親の方に歩み寄った。
階段を下りると、玄関のところに警察が来ていた。
「ちょっと中を見せて貰えるかね」
「ああ。良いですよ」
警官は2階に上がり、母親の死体を見た。
ついさっき殺したのに、いつの間にか、母親の死体はミイラみたいに干からびていた。
こうしてオレは捕まり、裁判を受け死刑になることになった。
これは、映画とは違うが、まあ、散々人を殺したので仕方ない。
首を吊られるのか、薬物を注射されるのかは、映画には出て来なかったシーンなので、オレには分からない。
ま、死刑になり、オレが死ねば、その瞬間にまた何か別の映画の中に生まれ変わるとは思うけどな。
出来れば、「七人の侍」あたりが良いぞ。
自分が久蔵になり、木の根元に座っている場面が思い浮かんだ。
木の上には菊千代の三船敏郎が、敵が近寄るのを待ち構えている。
これから二人で、三人の野伏せりを倒すのだ。
ここで、オレはベッドに横になった。
そうなると、やはり薬物注射が用いられるのだろう。
回りの人の手がせわしなくオレの体をまさぐり、オレのことをベッドに縛り付ける。
あともう少し。
それで生まれ変われる。
ここで頭の近くで声が聞こえた。
「お父さん。いつ目が覚めるのかな」
娘の声だ。
オレの娘が枕元にいるのだ。
「もうひとも経ったのに、お父さんは目覚めない。早く目覚めて欲しいなあ」
「きっともうすぐだよ」
これは妻の声だった。
そう言えば、娘に言われたんだっけな。
「夢を観ている途中で死んじゃったら、そのままずっと夢の中にいるんじゃないかな」
そうなると、オレは死んでるのか。
しかし、そうではない。
それは妻の言葉で分かった。
「お父さんが倒れてから、もうひと月経つけれど、今はだんだん反応が出るようになって来たわ。きっともう少しで目覚めるのよ」
なるほど。
オレはあの翌日に倒れ、意識を失ったのだ。
たぶん、脳出血かなんかだな。
神経の伝達経路を自分で修復するのに、ひと月くらいかかったのだ。
今は外の声が聞こえるようになっている。
ということは、もうじきオレは目が覚めるのだろう。
映画の中で生き続けるのもあと少し。
やはり生きてゆくのは、現実の世界の方が望ましいぞ。
額の上に手が当たった。
オレの娘が、オレの額に手を載せて、回復を祈っているのだ。
オレは集中して、自分の手指を動かそうとする。
すると、右手の人指指がぴくんと動いた。
ここで覚醒。