日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第334夜 夢に囚われて (その4)

さらにまた続き。

次に目が醒めると、オレはどこかの部屋の中にいた。
ホテル?という割には安普請だ。
「どこだろ。ここ」
部屋にはベッドが1つで、あとはバス・トイレだけだ。

外に出ると、この部屋と同じような部屋が横に並んでいた。
「モーテルだな」
すると、このモーテルの建物の裏の方から、声が聞こえた。
「ノーマン。ノーマン!」
オレって、ノーマンという名前なのか。
すぐに思い出す。
「ノーマン・ベイツ」がオレの名前で、ここは「ベイツ・モーテル」だ。

となると、オレが今いるのは「サイコ」なんだな。
でも、オレの母親はとっくの昔に死んでおり、オレ自身がその母親を演じていたはずだ。
じゃあ、オレを呼ぶあの声はいったい誰なんだ?

モーテルの裏の階段を上がり、自宅の方に向かう。
相変わらず、屋根が尖った建物だった。
「サイコ」も50回と言わず、見てるんだよな。
DVDはアメリカで売ってるヤツまで揃ってら。

玄関のドアを開いて、中に入る。
2階に上がって、母親の部屋に向かうと、その部屋にはオリビア・ハッセイがいた。
元は布施夫人だったあのハッセイだ。
「となると、これは最初の方ではなく、『サイコ4』ということだ」
ちょっとがっくり。
「サイコ」は3までは面白かったが、4ではネタが尽きた感がある。

その途端に、ついさっきまでアンソニー・パーキンスだったオレは少年の姿に変わった。
ハッセーは母親で、いずれオレはこの母を殺すことになる。
面倒くさいので、オレは今ここで殺すことにした。
少年の姿のままではやり難いから、ひとまず大人のノーマン・ベイツに戻って、それから母親の方に歩み寄った。

階段を下りると、玄関のところに警察が来ていた。
「ちょっと中を見せて貰えるかね」
「ああ。良いですよ」
警官は2階に上がり、母親の死体を見た。
ついさっき殺したのに、いつの間にか、母親の死体はミイラみたいに干からびていた。

こうしてオレは捕まり、裁判を受け死刑になることになった。
これは、映画とは違うが、まあ、散々人を殺したので仕方ない。
首を吊られるのか、薬物を注射されるのかは、映画には出て来なかったシーンなので、オレには分からない。
ま、死刑になり、オレが死ねば、その瞬間にまた何か別の映画の中に生まれ変わるとは思うけどな。
出来れば、「七人の侍」あたりが良いぞ。
自分が久蔵になり、木の根元に座っている場面が思い浮かんだ。
木の上には菊千代の三船敏郎が、敵が近寄るのを待ち構えている。
これから二人で、三人の野伏せりを倒すのだ。

ここで、オレはベッドに横になった。
そうなると、やはり薬物注射が用いられるのだろう。
回りの人の手がせわしなくオレの体をまさぐり、オレのことをベッドに縛り付ける。
あともう少し。
それで生まれ変われる。

ここで頭の近くで声が聞こえた。
「お父さん。いつ目が覚めるのかな」
娘の声だ。
オレの娘が枕元にいるのだ。
「もうひとも経ったのに、お父さんは目覚めない。早く目覚めて欲しいなあ」
「きっともうすぐだよ」
これは妻の声だった。

そう言えば、娘に言われたんだっけな。
「夢を観ている途中で死んじゃったら、そのままずっと夢の中にいるんじゃないかな」
そうなると、オレは死んでるのか。
しかし、そうではない。
それは妻の言葉で分かった。
「お父さんが倒れてから、もうひと月経つけれど、今はだんだん反応が出るようになって来たわ。きっともう少しで目覚めるのよ」

なるほど。
オレはあの翌日に倒れ、意識を失ったのだ。
たぶん、脳出血かなんかだな。
神経の伝達経路を自分で修復するのに、ひと月くらいかかったのだ。
今は外の声が聞こえるようになっている。
ということは、もうじきオレは目が覚めるのだろう。

映画の中で生き続けるのもあと少し。
やはり生きてゆくのは、現実の世界の方が望ましいぞ。

額の上に手が当たった。
オレの娘が、オレの額に手を載せて、回復を祈っているのだ。
オレは集中して、自分の手指を動かそうとする。
すると、右手の人指指がぴくんと動いた。

ここで覚醒。