日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第594夜 軽く一杯どうですか

◎夢の話 第594夜 軽く一杯どうですか
 13日の午前3時に観た夢です。

 十年ぶりに、所用でS市を訪れた。
 用事が終わり、飯でも食おうと繁華街を歩いていると、突然、後ろから声を掛けられた。
 「あれ。※※さんじゃないですか?」
 振り返ると、男が立っていた。
 こいつは誰だっけな。
 「私は玉村です。あれ。S省がらみの研究会でお会いしましたよ」
 ああ、そうだ。もう7、8年は前のことになる。
 そうは言っても、挨拶を交わした程度の間柄だった。相手のことはほとんど知らない。
 「今はどうしておられるのですか?」
 「細かい紀行文やエッセイなんかをちまちま書いて暮らしています。小説も書きますが、大して売れませんね。ま、さほど売れようとも思っていませんけど」
 「そりゃスゴイじゃないですか。作家さんだもの」
 「いや。キーを叩くだけで飯が食えるのは日本で20人くらいですよ。儲かっていると言えるのはムラカミ1人だけ。ビジネスとしては馬鹿らしいです」
 「はは。ご冗談を」
 玉村の仕事は何だっけな。まあ、役人に貼り付いて、公共事業を貰う流れの中のどれかだろう。

 「久し振りに、軽く一杯どうですか」
 「私は今はもう酒を飲まないのです」
 「まあそんなことを言わずに」
 玉村は俺の腕を掴み、どんどん先に歩く。
 気が付いたら、俺たちはどこか知らぬ店の中に入っていた。
 中央にホールがあり、周囲にテーブルが5つ。
 奥のカウンターの近くには、女の子たちが椅子に座っていた。
 15人はいそうな感じだな。

 「ここはクラブなんですか」
 「昔はダンスホールだったから、こういうつくりになっています。でも今はキャバクラです」
 なるほど。で、あの女の子たちか。
 小奇麗で露出の多いドレスを着ているとなると、値段が張るだろうな。
 「ここは高くないんですか」
 「大したことはないですよ」
 ま、大人の世界なんだし、誘った方が払うのが当たり前だ。
 ここで玉村が女の子を呼ぶ。
 3人が俺たちのテーブルについた。
 「いらっしゃいませ。私は真美です」「由香です」「美紗子です」
 いずれも、二十台前半だ。
 今の子は、皆、背が高くて、細くて、顔が小さい。だから、どの子もソコソコ綺麗に見える。
 「お客さんはここの方じゃないですよね」
 「よく分かるね。俺はH県から来ました」
 すると、美紗子という娘が声を上げた。
 「ウソ!私と同じじゃないですか。H県はどちらなんですか」
 「山の中ですよ。ホゲレラ村だもの」
 「ホゲレラ村!私は隣のコマドリ町生まれですう」
 「へえ。本当」
 「へっちょこ寺の近くです」
 「え。へっちょこ寺。じゃあ、俺の実家からほんの5キロだ」
 まさか、都会でもない、こんなS市で出会うとは。
 ここから話は、「田舎の誰それがどうした」という話になる。

 ひとしきり話をした後、バラードがかかった。
 すると、美紗子が俺に言う。
 「※※さん。私と踊りましょうよ」
 「え。俺は踊れないよ」
 「揺れているだけで大丈夫ですよ。さあさあ」
 美紗子が俺の手を強引に引き、ホールの中央に連れて行く。
 仕方ねえな。
 しかし、手を組むと、すぐに美紗子は俺に囁いた。
 「※※さん。気を付けた方が良いですよ。この店はすごく高いんです」
 「俺はあの玉村って男に連れて来られたから、よく知らないんだよ」
 「あの人。客を引き込む役目なんです。もうそろそろ、『ちょっと用事がある』と言って消える筈です。いつもそうだから」
 「で、勘定は俺ってことか」
 「そうです」
 「いつもだいたい幾らくらい?」
 「30万から50万の間です」
 それじゃあ、払えない。

 席に戻ると、玉村が俺に「ドン・ペリ飲みませんか?」と誘った。
 なるほど。自分は払う気が無いばかりか、分銭まで貰っているわけだな。
 それじゃあ、どんどん頼もうとするだろ。
「いやあ。俺はいいですよ。この場合、いいってのは要らんということです。だって、ここの飲み代は俺が払うわけじゃないもの。そんな高いのをご馳走になったら、申し訳ない」
 もちろん、ブラフで、かまを掛けてみたのだ。
 すると、玉村の目つきが変わった。
 「え」
 黒目がくるくると目まぐるしく動く。動揺しているのだな。
 自分の魂胆を見透かされたのではないかと思っているわけだ。
 「いやあ。またまた」
 とりあえず、玉村はその場をとりなそうとする。

 「じゃあ、私はちょっとトイレに行って来ます」
 「どうぞ。奥のトイレですよね。外の公衆トイレじゃないでしょ?」
 「もちろんです」
 玉村がそそくさと席を立つ。
 玉村は奥の通路に消えたが、行き先はトイレではなく、この店のオーナーのところだろう。相談しに行ったのだ。
 座り場所を変え、通路の奥が見える位置に移る。
 すると、数分後、非常口の扉が急に開き、男が慌てて出て行った。
 あいつめ。とにかくこの場から逃げようと決めたわけだ。
 やはり、ヤツは店とぐるになっていた。

 ここで俺は隣の美紗子の耳に口を寄せた。
 「トラブルになりそうになったら、すぐに表に出るといいよ。この中は危ないから」
 「でも、店の奥には、用心棒みたいな人がいます」
 「はは。大丈夫だよ」
 すると、ほとんど間を置かず、男が俺のテーブルにやって来た。
 「お客さん。支払いの件ですが・・・」
 「払いは玉村ってヤツだよ。あんたも知ってる男だ。さっきあんたの部屋に行ったものな」
 これで男の顔が赤黒く変わった。
 「おい、お前。それで済ませられると思っているのか」
 気が付くと、その男の後ろに、190センチはありそうな大男が立っている。
 俺は美紗子に目配せをした。
 美紗子はすぐさま立ち上がり、小走りで入り口の方に去った。

 ここで俺は自分の鞄の中に手を突っ込んだ。
 「あんたら。運が悪いねえ。今日の俺はものすごく機嫌が悪いんだよ」
 鞄から取り出したのは、ガスボンベだ。コンロで使う市販のヤツだが、頭に自作の噴射口が付いている。
 レバーを引くと、火炎放射器に早代わりする。
 俺は店の主と大男に向かって、思い切り炎を吹きかけた。
 2人は瞬く間に火達磨になる。
 「すまんね。今の俺の本当の仕事は、過激派とかテロリストに色んな武器の作り方を教えることなんだよ」
 鞄の中には、他にも様々な武器が入っている。

 店の調度類に火が移り始めた。
 女たちは慌てて、非常口から外に出ようとするが、大人数が一度に出ようとするから、通路に人が詰まって出られない。
 あれでは、五六人が焼け死ぬだろうな。
 「ま、炎の向こう側だから助けようが無いね」
 俺は燃え盛る火に背中を向け、店の入り口から外に出た。

 ここで覚醒。