日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第621夜 安達ヶ原

夢の話 第621夜 安達ヶ原
 12日の午前4時に観た夢です。

 お伊勢参りに出かけたのは良いのだが、お参りをした帰路に病気になってしまった。
 ひと月ほど小田原のお寺に厄介になった後、ようやく家路についた。
 ここから俺の家までは、ほぼ一ヶ月掛かる。
 だが、ようやく家に帰れるので、心は明るい。

 足取りも軽く歩いていると、いつのまにか道の前にも後ろにも人が見えなくなった。
 「奥州道でも、こういうことはあるのか」
 人や馬車が常に行き来しているものだと思っていたが。
 ま、まだ日は高いし、追剥なんかが出たりはしないだろ。

 原っぱを進んでいると、涼しい風が吹いてくる。
 「ああ。気持ち良い」
 体は疲れ切っていたが、まだまだ気力は充分だ。
俺はここで杖を持ったまま、思い切り体を捻った。
 「よっしゃあ。もうすぐだあ」
 すると、俺の後ろの方で、突然、叫び声が響いた。
 「ぎゃあ」
 驚いて後ろを向くと、俺のわずか半間後ろに人がいた。
 手を伸ばせば届くほどの近さだ。
 俺は杖を振り回し、その人の頭を力いっぱい叩いてしまったのだ。
 後ろの人は頭を押さえてじっとしている。
白髪頭に、赤い血がじわあっと滲み出て来る。
 息を三回したら、そいつが頭を押さえながら、顔を上げた。

 「うわ。何だお前は!」
 白髪頭の下の顔は老婆で、口が耳まで裂けていた。
 驚いた拍子に、俺はもう一度、杖でそいつの頭を殴りつけた。
 「ゲゲゲ」
 すると老婆は両手で頭を押さえつつ、恐ろしいほどの勢いで叢の中に走り込んだ。
 老婆が去ると、辺り一帯は、また元の静けさを取り戻した。
 「あいつはいったい何だったんだろ」
 ま、答は明白だ。
 ここは安達ヶ原だもの。鬼婆に決まっている。
 あの鬼婆は隙を見て俺を取って食おうと、後を尾けていたのだ。
 鬼婆が手を伸ばしたところに、ちょうど俺が杖を持ったまま伸びをしたから、うまい具合に頭を捉えたのだった。

 「ああ。少し体調がいいからと言って、気を許したらダメだな。鬼婆はともかく、俺にはあのやっかいな縞女がいるもの」
 これから目が覚めるけど、起きてからもよくよく注意しよう。
 俺は自分を強く戒めた。
 ここで覚醒。