日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎死人に会った話

◎死人に会った話
 1年前、近所のご老人が亡くなった時に、葬儀のお手伝いをしたのです。
 お宅に伺い、段取りを聞いたのですが、ふと箪笥の上を見ると、幾つか遺影らしき写真スタンドが置かれていました。
 そのうちの1枚に、40歳くらいの男性が笑って写っているものがありました。
 組合の人がそれを見て、口を開きました。
 「あれえ、これはショウジさんだね。最近見かけないけれどどうしているのかな」
 その人は、それが遺影だってことに気づかなかった模様です。
 遺影の男性は、この家の奥さんの弟らしく、時々、この家に遊びに来ていた風です。

 すると家の人が答えました。
 「ショウジ君は亡くなっちゃったんですよ。奥さんが癌で死んで、葬儀を終えて3ヶ月くらいしたら、後を追い駆けるようにショウジ君も亡くなった。朝、ゴミを出しに行ったら、そこで亡くなってた。まだ四十三歳だったのにねえ」
 傍でそれを聞いていて、思わず眉間に皺を寄せてしまいました。
 何故なら、つい2、3ヶ月前に、私はその人に会ったような気がしたのです。
 家の前を通り掛かった時に、その人が立っていたので会釈をした記憶があります。
 でも、3年前に亡くなっていたのなら、たぶん記憶違いですね。
 もっと前に会っていたのを、数ヶ月前と勘違いしているのでしょう。

 ところが、その考えは間違っていたようです。
 昨日、病院から帰り、駐車場に車を置いて、家の方に歩き始めると、バッタリその人に会いました。
 近所の人なので、つい反射的に挨拶をしてしまいます。
 「こんにちは」
 しかし、心の中では「え?」「え?」と驚いているわけです。
 ま、この手のことでは、私はあまり動じない方です。ホラー映画に出るような廃屋も廃病院もまったく平気。怖いのは足元が見えずに、つまづいて転ぶことだけですね。
 それでも、その男性は亡くなった方なので、もちろん、驚きはします。
 すると、その男性が私の方を向いて、返事をしました。
 「あ。こんにちは」
 
 ありゃ、返事をしやがった。
 幽霊が勝手にしゃべっていたりすることはあるのですが、通常、会話は成り立ちません。
 死んだ者には頭が無く、思考能力が失われているのです。やり取りは出来ません。
 思わずドキドキしてしまいますが、謎はすぐに解けました。
 「ショウジさん?」
 「いえ。私は弟です」
 顔がそっくりだったので、私はそれがを故人本人だと見なしていたのですが、下にもう一人の弟さんがいたわけです。
 兄弟だけに顔立ちが似ており、嗜好も似ているので、同じような眼鏡を掛けていたというわけです。
 ああ、良かった。
 ひとつ問題が解決しました。

 ちなみに、冬季のゴミ出しの際、暖かい室内から急に外に出るので、注意が必要です。首の周りにマフラーを巻くだけで、だいぶ違いますので、中高年は気をつけてください。