◎縁がある
井上円了との出会いは、長女が東洋大学に入ったことから。
入学式に行くと、色々な資料を配っていたので、何気なくそれを開くと、開学者である由が記してあった。
明治30年代に、円了はそれまでの迷信を打破すべく、妖怪や幽霊を真面目に解明しようとした。
科学的方法論など知られていない時代に、合理性に照らし合わせて、超自然の本質を見極めようとしたのだ。
その結果、超自然現象の大半が「説明のつくもの」だとし、「こっくり」の本質を説明した。
円了の優れた点は、超自然現象そのものを否定してはいないことだ。
あくまで「説明のつく現象」と「説明のつかない現象」を見極めろと言っている。
今でも、肯定する者は何でも肯定し、否定する者は頭から否定する傾向があるのに、円了は至って冷静な思考をしていた。
私はそこが気に入って、井ノ川円了というキャラを作り出した。人物像はまるっきり井上円了そのものだ。
こういう男が妖怪を次々に退治していく話があれば、さぞ楽しかろう。そう思ったのだ。
相棒も必要だから、森下林太郎を作った。すぐに森林太郎(鴎外)だと分かるはずだが、ほぼ同時代に生きている。
医者だし、ホームズとワトソンみたいなコンビにすれば楽しめそう。
短編で連作にしていくつもりだったが、どうしても侍小説のほうがメインなので、『怖谷奇譚』『明治橋奇譚』の2つで停まっている。新聞連載までで、単行本化していないのは、本数が足りないから。
こっちも、私が生きているうちに何とかしたいものだが。
このところ、幽霊に悩まされているので、また円了の著作を開くことになった。『妖怪学講義』もどこかにある筈だが、とりあえず、再び解説から目を通そう。
画像はその解説書だ。
目下の問題は、私が相手にしているのが、円了先生の言う「真怪」、すなわち、「合理的な説明のつかない現象」らしいってことだけだ。
十年経って、また最初の入り口に戻ったところを見ると、どうやら円了先生とは深い縁があるらしい。
冬を越えられたら、途中で留めている三本目を書き終わらせようかと思う。