◎夢の話 第704夜 父の幽霊
9日の午前7時に観た短い夢です。
郷里の倉庫に、父の幽霊が出ると言う。
対処に困った甥が電話を掛けて来た。
「幽霊のことなら、叔父さんに頼めば何とかしてくれると思って」
ま、大概のことは何とかなる。
俺が常にこのジャンルに関し否定的な態度を取るのは、「助けて下さい」と言う者が寄って来ないようにするためだ。普段はこういう話を小ばかにするくせに、いざ自分の身に降りかかったら、手の平を返す。俺はそういうのには虫唾が走る。
だから、俺が手を差し伸べるのは、昔から付き合いのあった者だけだ。
甥にとっては祖父で、俺にとっては父親の話だから、もちろん、すぐに行くことにした。
郷里の倉庫に着いたのは夜中の2時頃だった。
これくらいの時間帯にこの倉庫の中に父の幽霊が現われ、中に積んである品物を崩し、辺りに散乱させるらしい。
ちょうど良いのでそのまま中に入った。
かなり古びてはいるが、元々、子どもの頃に暮していた家だし、灯りが無くとも位置関係は分かる。
「親父が出るとしたら、厨房から前だろうな」
父は厨房で魚を捌き、前のショーケースに陳列していた。
何十年も続いた父の人生だ。
ライトを厨房の方に向けると、即座に男の姿が照らし出された。
「ありゃま。いきなりかよ」
50歳くらいで、白シャツ1枚の中年オヤジだ。
確かに男盛りの頃の父の姿にそっくりだった。
急にライトの光を当てられ、男の方も驚いたのか、眼を丸くしてこっちを見ている。
その様子を見て、俺は不信感を覚えた。
「何だかおかしいぞ」
父はあまり表情を変えない人で、心中の喜怒哀楽を表に出さない性格だった。
祖父もそうで、祖父の方は寡黙でもあったから、祖父がどういう人だったかがいまだに何ひとつ分からない。
父が感情を表に出さないのは、その祖父譲りの気性だったのだろう。
こんな風に驚くことはないのだ。
俺はこの時、自分の脳にジョバジョバと血が通い始めるのを感じた。
頭が次第に働くようになって来る。
「なあんだ。俺は今、夢を観ているのだ。脳が休んでいたから、情報がデフォルメされている」
思考能力が戻って来ると、今の状況を認識することが出来るようになる。
「だいたい、親父はまだ生きているんだし、幽霊になるわけがなかろうよ」
目の前にいるヤツは、単なる「倉庫荒し」で、たまたま父と同じ扮装をしていただけのことだ。
「そして、そもそもこの設定自体が夢だってことだ」
じゃあ、入り口に戻って、照明のスイッチを入れれば、たぶん、まだ灯りが点くし、それと同時に眼も覚める。
「ご苦労さんだったな」
俺は男に向かってそう言うと、踵を返して、入り口のドアの裏に手を掛けた。
すぐさま、店の照明のスイッチを入れた。
古いライトだから、灯りが点るのに、2、3度点滅したが、やはりまだ点いた。
店の中がパアッと明るくなる。
その瞬間、俺は心中で舌打ちをした。
「いけね。これで眼が覚めてしまう。家の方でお袋が俺を待っていたかもしれんのに」
ここで覚醒。
これから東北に向かいますので、郷里に関わる夢を観たのでしょう。
冒頭は「既に父が死んでいて」という設定でした。
これは父にとっては吉夢で、既に90歳を越える父が「まだしばらくは死なない」ことを暗示しています。
さすが、強運の人です。
息子の私の方が微妙なのですが、この先の対処法については、父に訊いてみることにしました。今の父の方が私に合った結論を示唆してくれると思います。
ここから、どうやって生き延びれば良いのだろ。
「立ち位置を替える」と宣言してから、「あの世」系の不審事が急速に少なくなって行きます。確かに、味方であれば、脅しも示威行為も必要ありません。
あとは「死期延ばし」に結びつけるだけです。