日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第714夜 二つの夢

◎夢の話 第714夜 二つの夢
 30日の午前4時に観た夢です。2つの夢を同時並行で観ました。

 まずはひとつ目の夢。
 父の記念式典があり、東京に親族が集まった。
 父は高齢だから、身の回りの世話をする必要がある。父に付き添って、まずは宿泊先に連れて行った。
 (建物を見る限りでは、そのホテルは「フロラシオン青山」だ。夢なのに、具体的な場所が出て来る。)
 ひとまず父を部屋に入れ、礼服を揃えて、ベッドの上に置いた。
 予め人型の配置に置けば、どういう風に着るか、父でも分かる。

 式は夕方の6時からだが、今は昼の12時頃。
 ひとまず、今度は娘たちを迎えに行くことにした。
 駅まで行き、駅3つ位の先に娘二人が泊っている。
 ホテルを出て歩き始めたが、道が全然分からない。
 「おかしいな。ここの道は分かり易い筈なのに」
 ある顧客がレセプションでよく使うホテルで、俺は頻繁にそこに行っていたから、周囲の地理はよく知っている筈だった。
 ところが、見覚えの無いビルや陸橋、初めて見るハイウエイが次々に現われる。
 携帯を見るが、ビルの谷間が影響したのか、うまく繋がらない。

 「ま、真っ直ぐ行けば、いずれどこかの駅に当たる」
 そう思って歩いていたが、いよいよ見知らぬ街に入って行く。
 気が付くと、都心の街並みが消え、昔のごちゃごちゃしたつくりに替わっていた。
 何となく、東京ではなく埼玉に入っているような気がする。
 「おかしいな。ここは新座そっくりだ」
 すぐに畑が現われ、田園地帯の景色が広がる。
 この時には、俺はもう汗まみれだった。
 「十キロどころではないくらい歩いたよな」
 とりあえず、駅を探さなくては。
 込み入った路地を入って行くと、駅らしき建物が見える。
 「ようやくどこかの駅だ」
 ここで携帯が鳴った。
 電話は長女で、二人して「部屋で待っている」と言う。
 「この駅は」
 看板を見ると、「北朝霞」だった。
 俺はここを訪れたことが、生涯一度も無い。
 「今はこの駅にいる。もう遅くなったし、タクシーを拾って、お前たちの所に行くから、急いでお祖父ちゃんのところに向かおう」
 そう言って通話を切ると、すぐに着信音が鳴った。
 電話を掛けて来たのは「二条国保」と言う人だ。
 俺はこの人のことを知らない。

 「今どこですか?お父さんが待ってるよ」
 何となく、「親戚の人だな」という気がする。祖父の本家のご主人の声にそっくりだった。
 「時刻が迫って来てるから、早く来て下さい」
 「分かりました。なるべく早く行きます」
 何とか間に合わせなくてはな。
 ここで俺は自分に言う。
 「俺はいつも父や母の期待を裏切って来た。これまでやって来たのは反対のことばかり。何ひとつ親の意向に従ったことはない」
 本当に心苦しい。父母を喜ばせることは幾らでも出来たのに、俺はそうしなかったのだ。
 「母は死んだが、まだ父は生きている。こんな俺のことを許して貰えるように、残りの時間を遣うようにしよう」
 とりあえず、父に会ったら、俺がして来た反抗の数々を謝り、許して貰わねばならない。

 この夢と同時進行で観ていた二つ目の夢はこう。
 夢の中で、俺は「探し屋」を生業としていた。
 文字通り、行方不明になった人を探すのが仕事だ。
 「子どもの頃の友だちを探して欲しい」とか、「生き別れになった母を捜して欲しい」に始まって、家出した子や失踪した大人を探したりもする。
 毎年、行方が分からなくなる人は十万人に及ぶが、うち6割は半年以内に行方が分かる。
 1割は病気や事故で亡くなっていたことが分かるが、残りの3割は消息不明のままだ。
 このせいで、俺のような「探し屋」という商売が成り立つのだ。

 俺の家の倉庫には、大きな金属の戸棚がある。普通のスチールの事務用のものと違い、鋼鉄製のヤツだ。ほとんど金庫と言ってよい。
 この中には、未解決の、すなわち俺が探し出せなかった人の所有品が入っている。
 家族から持ち物を預かり、それを手掛かりに探すのだが、仕事が不首尾に終われば、通常、その品は返す。だが、ほとんどの家族は俺に「持っていてくれ」と言う。そして、「もし何か手掛かりがあったら、報せて欲しい」と言うのだ。

 俺が抱えた悩みはコイツのことだ。
 この戸棚の中には、携帯やら鞄や服、日記帳やらと、ひとの人生に関わった品物が入っている。そして、その持ち主の大半は既に亡くなっている。
 そのせいなのか、不審なことが頻繁に起きる。
 夜中の2時から3時の間、戸棚の中でゴトゴトと物音が響く。それだけではなく、声まで聞こえて来ることがある。
 「ううう」という唸り声の時もあれば、「助けて下さい」と訴える時もある。
 このため、夜中のこの時間帯になると、俺は必ず目を覚ます。
 倉庫から遠く離れた部屋で寝ていても、この音は聞こえるし、むしろ大きくなるから、どこにいても変わらない。
 「このままじゃあ、俺の気が変になってしまう」

 すると唐突に、俺の背後で声が響いた。
「そんなの。別に扉をきっちり閉めて、気にせずにいればいいんだよ」
 振り向くと、男が立っていた。五十台半ばの男で、髪は白髪交じりの短髪。痩せた体躯に道着か作務衣のようなものを身に着けている。
「でも、声が聞こえると、どうしても」
 「そりゃ、その人たちは君に救って欲しいから声を掛ける。だが、君は神さまじゃないんだから、そうそうしてやれることは少ない。声が聞こえても、放り捨ててればいいんだよ。こんな風に」
 男は扉に手を掛けて、がらがらガッシーンと閉めた。
 (ありゃ。この扉、開いていたのか。)
 その途端に、戸棚の中から「ああ」とも「うう」ともつかぬ、残念そうなうめき声が響いた。
 「閉めたって、声は聞こえるだろうけれど、君にゃ自分の暮らしがあるだろ。気にするな。皆は助けられんのだから、手を差し伸べるにせよ一人ずつにしとけば」

 ほんの少し考えさせられたが、男の言うことはもっともだった。
 「それもそうだけど」
 「病気とあの世の声のせいで、君は動けずにいる。今は何も出来ずにいるだろ。でも、チャンスはある。きちきちとあちらこちらの扉を閉めて、目の前のことをひとつずつこなしていけばいいんだよ」
 「え。こんな俺にもチャンスがあるのか。俺はもう来月か再来月くらいに心不全で死ぬと思っていた」
 すると、男が改めて俺に正面から向き直った。

 ここで二つの夢がひとつに統合した。俺は「今は自分が夢の中にいる」ことを自覚し、起きている時の人格を取り戻した。
 でも、男は消え去らずに、そのまま俺の目の前に立っていた。
 俺がその疑問を口に出す前に、男の方が答を言う。
 「そりゃそうだよ。私は君自身だもの。正確には君の魂の中核の一人だ。もう一人、金持ちの首を切り落としてきたヤツもいるが、私がそいつの尻を拭いている」
 そうか。幾度も生まれ替わって、修験者になったり、一揆の首謀者になったりしていると思ってはいたが、やはりそういうことか。
 「肉体の死は消滅ではない。そのことを知っているだろ。なら死ぬことを恐れる必要は無いじゃないか。君が死んだ後にやることはもう決まっている。なら、生きている間は自分の人生を楽しめば良いのだよ」
 「恐れを感じるのは、先がどうなるかを知らぬからだ。俺はそう他人に言って来たが、俺自身も同じだったのだな。死ぬのを恐れ、首を縮めている」
 「そう。どうすべきかを知る者が、いったい何を恐れる」
 一瞬にしてモヤモヤが晴れ、心の中が隅々まで澄んで行く。
 「ああ、良かった。じゃあ、俺はそろそろ目を覚ますことにする。危なく俺は今朝、あの滝に行き、穴に入ってみるつもりだった。そうやって生き延びる術を見つけようと思っていたのだ」
 すると、男が少しく微笑む。
 「だから、こうやって私が来たのだよ。この時期にあの場所を訪れる者は無い。もしあそこで君が心不全で倒れたら、君はそのまま死ぬだけだ」
 「止めてくれようとしたわけか」
 「うん。そうしないと、今日、君は死んでいる」
 ドキッとする。もしかすると、「一月から三月の間に死ぬ」という予感は、このことを指していたのかもしれぬと考えたのだ。
 生きる術を探すべく振舞うことが、逆に予知を現実のものにする結果を招いていたということだ。

 「となると、俺はすぐに死ぬことは無いな」
 俺の言葉を聞き、男が頷く。
 「それに、仮に死んでも、俺にはその先にやるべきことがある。それを付け加えておかんとな」
 「そうそう。それでいいんだよ。今は一人だけにしとけ」
 男はそれを言い残すと、一瞬にして姿を消した。
 ここで覚醒。

 目覚めてすぐに考えたのは、男が言った最後の言葉だ。
 「一人だけにしとけ」とは、いったいどういうこと?
 答はすぐに分かった。
 この俺が助けられるかもしれぬ魂が、確かに一人いる。