◎すぐに止まるらしい
病棟に独りでいると、「ガラモンさん」が近づいて来た。
「ガラモンさん」とは同じ病棟の患者だ。風貌が怪獣の「ガラモン」を思い出させるため、私は心の中でそう呼んでいる
最初の3年間では、挨拶すら一度もしたことがないが、ガラモンさんがバイパス手術を受けた後、距離が近くなって、時々話をするようになった。
今日の話はこんな風。
ガラモンさんは体に心臓のペースメイカーを入れている。
普通は胸の中央だが、脇の下のタイプらしい。
確かに、胸に突起があると、温泉にも行きづらいから、脇の下は正解だと思う。
でも、ここに機器を入れるのは、ものすごく痛い。
ガラモンさんの機器は、心拍のリズムを整えるタイプではなく、「止まったら動かす」ものだということだ。
そのまま放置すると、自然に心臓が停止するので、止まった心臓を動かすためのものだ。
「時々、自然に心臓が止まってしまう」というのもスゴイ話だ。日常が「死」と隣り合わせ。
「これでも医者は『あなたはものすごく良い方ですよ』と言うのよ」
実際そうだと思う。
ガラモンさんはバイパス手術を受けて、2ヶ月目には歩いている。
普通は3ヶ月くらいは安静にしている必要がある。
ま、通常の心臓の処置でひと月後、バイパスみたいな重いやつで3ヶ月後くらいの間に、大なり小なり「ぶり返し」が来る。バランスを欠くためだ。
このため、「3ヶ月間は何かをしようと考えたらいけない」と思う。
叔父もバイパス直後に動いてしまい、それが元で死んだ。
知人にも「調子が良いので」働いてしまい、仕事場で死んだ人がいる。
ガラモンさんは透析患者なので、リンを排出出来ない。
きちきちの食事制限をしていても、やはり動脈硬化が進むし、心筋梗塞にもなりやすい。
健康な人でも、リンを過剰摂取していると、リスクが高まると思う。
高リン食品は、肉、特に脂身や乳製品、海草、豆類など。
健康のためにヨーグルトを飲み、肉類を食べ、海草サラダを多食していると、逆にまっしぐらに進む。
尿で排出されるから、水分を沢山とって、体外に出すとリスクが少し下がる。その意味では、少々酒を飲むのは健康に良い。
以前のガラモンさんは顔が固くて、近寄りがたい雰囲気だったが、今は穏やかな表情をしている。
ま、「心停止クラブ」のメンバーに入ると、人生観ががらっと変わる。
今はもうお互い仲間なんだと思う。
まだ「お迎え」を見たかと訊いていない。
いきなり訊いても言わないから、先に自分のことを離さねばならないが、その説明が面倒なためだ。