日刊早坂ノボル新聞

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◎「鬼灯の城」 第十章 怨霊 (最初の裏切り)のプロット

◎「鬼灯の城」 第十章 怨霊 (最初の裏切り)のプロット
 半年の間、体調が最悪で、「鬼灯の城」の連載が止まっていた。床から起きて書こうとするのだが、エネルギーが続かない。
 とりわけ、どうしても書けなかったのが、「櫛引城の戦い」の場面だ。
 基本的な流れは結末まで出来ているのだが、「裏切り」をどこに織り込んでいくかで躊躇するところがあった。
 しかも、最初の「裏切り」が最も難しい。...
 ちなみに、「鬼灯」の花言葉が「裏切り」「背信」だから、この物語は基本的に「裏切り」がテーマになる。

 八戸薩摩が法師岡館と櫛引城を攻撃する直前に、それと察した櫛引清政が釜沢淡州(重清)に援軍の要請をする。
 ほとんど同時に、八戸からも早馬が届く。
 さて、どちらに応えるべきか。
 重清は祈祷師の杜鵑女に意見を訊くが、杜鵑女は「八戸に加勢しろ」と返答する。
 これは霊視の結果ではなく、八戸と三戸連合には「付け入る隙がある」と見たためだ。
 八戸は子種の薄い血筋のようで、薩摩(政栄)自身も養子なのだが、実子がおらず、弾正(直栄)を養子に迎えている。
 三戸の南部信直は戦略に疎く、九戸に連戦連敗の有り様だ。いつ倒されてもおかしくない。
 関白秀吉に朱印状を与えられているのが強みだが、支援を受ける前に滅ぶ可能性がある。
 かたや、九戸政実は勇猛で、人格者でもあるから、信望が篤い。もし、九戸の傘下に入れば、この先はずっと家来のままで終わる。
 そこで杜鵑女は「八戸に」と助言したのだ。
 重清は了承し、出発しようとする。

 ところが、重清が祈祷所の外に出ると、側室の桔梗が走り寄り、「櫛引さまを支援しろ」と乞う。
 桔梗の父親が清政と懇意にしており、青獅子狩りを共にする仲だった。桔梗自身も交流があったから、重清に肩入れするよう頼んだのだ。
 この時、祈祷所の戸板が少し開いていたから、桔梗の話は杜鵑女に丸聞こえだった。

 「もし淡州どのがあの女子の言を聞き入れたなら、大変なことになる」 
 これは、重清が「杜鵑女よりも桔梗の方を重んじる」ことを証明するものだからである。
 杜鵑女の心の中に桔梗に対する怨念が渦巻く。

 重清を送り出した後、桔梗の背筋に怖気が走った。
 何事かと、後ろを振り返ると、祈祷所の戸板の隙間かひとのら片目だけが桔梗を睨んでいた。

 この後、重清は櫛引に向かう途中で、清政が手勢二十騎を引き連れ、敗走するところに遭遇する。
 重清は杜鵑女との約束を破り、清政を見逃してやる。
 これを知った杜鵑女は、桔梗を殺す手立てとして、重清の前の妻・雪路の怨霊をこの世に呼び戻すことにした。

 これで話が繋がって行く。
 戸板の隙間の向こうは暗い闇なのだが、そこに「女の片目だけが見えている」場面が浮かんで来ずに、長らく苦労した。
 でも、そういう「片目」は、現実世界で、私の撮る写真に頻繁に出て来る。それもようやく役に立ちそうだ。