◎天空のラッパ
居間で寝ていると、「ファーンファンファンファン」という音が聞こえた。
何か金管楽器みたいな音だ。
「こんな夜中にどうしたのだろ」
近所で警報が鳴っている、とか。...
冬に時々あるように、車の警報が勝手に鳴り出している、とか。
まるで「天空のラッパ」みたいに、空一杯に鳴り響いている。ちなみに、こいつはこの世の終わりが来る時に、空で天使が吹くというファンファーレのことだ。
「いったい何だろうな」
近所に泥棒が入ったのかと、外の気配を確かめるが、別段異状はない。窓を開けても、ただ真っ暗な闇が見えるばかり。
「ファーンファンファンファン」
目覚めた後も音は鳴っている。
すっかり目が覚めてしまったので、音の正体を確かめることにした。
「まずはコーヒ-を飲むところからだな」
台所に行き、コーヒーを淹れた。
すると、すぐ後ろでその音が鳴っていた。
振り返って、耳を凝らすと、音は冷蔵庫から出ていた。
「なあんだ。こいつが出していたのか」
電子機器だし、冷蔵庫はファンを使う。振動が出るから、音も出る。
「だが、さっきは随分と大きな音だったな」
空一杯に響き、驚いて目を覚ますくらいの音だ。
しかし、すぐに気がついた。
「俺は第六感が立つ。この第六感というのは、検知出来る周波数域が少し広いということだ」
第六感の立つ者は、多くの人が聞こえない無声音を聞いている。
これは偶然俺が発見したことだが、どうやら的を射ていたらしい。
「普段はサイレンとか警報じゃなくてひとの声だ。そっちは毎日のことだが、こういうのには聞き慣れていないから驚いたわけだ」
納得はしたが、それこそ、「自分が見たり聞いたりしているものや音を、大半のひとは理解しない」という意味だ。
少しゲンナリする。
こんな夜空じゅうに響く程の音なのに、これが聞こえないとは。
完全に目が覚めてみると、さっきのファンファーレはほとんど聞こえなくなっていた。
覚醒している時には、感度が鈍くなっているか、気が散って音を捉えられないらしい。
「あの世」の掴み所のなさは、ひとの感覚で捉えられない・捉え難いところから来ている。
それでも、「見えない」「聞こえない」からといって、それが「存在しない」ことを証明したことにはならない。
目を瞑って触るだけでは、それが象なのかカバなのかは分からない。
また、空中に手を伸ばして、なかなか物に当たらなくとも、そこに何も存在しないとは限らないのだ。