日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎お世辞は3倍

◎お世辞は3倍

 病棟に70歳台の非常勤の「看護手伝い(助手)」の女性がいる。

 看護師の免許を持っているので、「看護師」として働けるのだが、70歳前後だから、あくまで介護補助のアルバイトの立場のよう。

 ま、パートでも看護師なら責任が生じるから、年齢的に今のほうが気楽で良いかも知れん。

 病院の外で幾度か偶然会ったが、看護着ではなく普通の服装をすると、5歳くらい若く見える。病院内ではいかにもバーサン然としているが、「いかにも」が無くなり、「バーサン」に。

 

 昼食時に、このバーサンが近くで配膳の仕度をしていた。

 ちょうど、「知り合いになる」ノウハウを考えているところだから、ちょうどよい練習相手だ。

 頭の中でくるくると考える。

 言葉に真実味を与えるのは、「本心から思っていること」を言うことだ。「嘘が無い」のが一番効く。

 よって、「外で見たら、かなり若い」が柱だ。

 「若く見える」は×。見ているのは「私」なので、本来の主語が「私」になってしまう。

 会話から「俺はこう思う」「私はこうだ」を極力排除するのが基本中の基本だ。

 

 現実に寄り添うと真実味が出るが、どうしても「私が見たところでは」が言外に含まれてしまう。言い回しにはかなり添削が必要だ。

 さらに、「お世辞は3倍の強さで言え」が鉄則だ。

 

 「外で時々お見掛けしますが、制服の時より15歳若いですね」

 やや苦しいが、これで行った。

 言葉を発する人の人格イメージに合わないと、「何でそんなおべんちゃらを言うのか」と相手が腹を立てたりするから、「自分を鏡に映す」という意味にもなる。

その辺、私は普段、「誠実対応」の塊だから(笑)、たぶん、大丈夫。

 

 様子を見ていると、バーサンは「15歳はないよう」と答えた。

 しかし、もの凄く喜んでいる表情だ。

 重要なのは、この次のひと押しだ。

 「制服だと型にはまるから、本当の姿は分からないよね」

 すると、バーサンは「褒めてくれて有難う」と礼を言った。

  見え透いたお世辞なのだが、TPOで魔法がかかる。

 

 最短距離で仲良くなれる一番の秘訣は「魂胆を持たない」ことだろうと思う。

 何かが欲しくて言うお世辞は、もはやお世辞ではなく、「撒き餌」になる。

 人は目の前の「撒き餌」に簡単には食いつかない。

 

 もし詐欺師が悪用するとなったら、まずは「魂胆を隠す」ことから。

 相手のためになることを誠実に考え、相手中心の眺め方をする。

 もちろん、それも信用されるまでの話だ。

 

 折り返し防御策を考えると、一番簡単なのは「お世辞を言う者を信用しない」ことだ。

 (これには逆パターンがあり「脅し」のこともあるが、意味は変わらない。)

 その場合、魂胆が無い人も遠ざけてしまうという難がある。

 

 この日の女性の頭の中では、たぶん、私は「良い人」のカテゴリーに入っていると思う。

 もちろん、これまで外ですれ違った時に、幾度か「良い洋服だ」と褒めていたりするから、事前の積み重ねがあったこともある。

 高齢になると褒められることが無くなるだけでなく、会話すら乏しくなる。

  「昔、自分はこうだった」という話を聞かせられると、誰も寄り付かなくなるから、高齢期にさしかかる前に「素の会話術」をソコソコ学ぶ必要がありそうだ。

病棟では、ジーサンと話をしても何ひとつ得られるものは無く、またつまらない。

   ま、女性の方が長生きするし元気だ。しぶとくて、なかなか死なない。世間話の経験が数十年あるから、身の回りの話題には事欠かない。

   男性は仕事中心に暮して来たせいか、仕事と食べ物、病気という素材を取ったら、さしたるものが残らない。趣味の話題は共通の関心を持つ者にしか使えない。