◎アリとキリギリスの話
「アリとキリギリス」の寓話は、誰もがよく知っている。
話の筋は概ねこんな具合だ。
アリたちは、夏の間、冬の食料を蓄えるために働き続けた。
かたやキリギリスはヴァイオリンを弾き、歌を歌って過ごした。
やがて冬が来た。
キリギリスは食べ物を探すが見つからず、ついにはアリたちに乞い、食べ物を分けてもらおうとした。
しかし、アリは「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったいればいいだろ」と食べ物を分けることを拒否した。
結局、キリギリスは飢えて死んでしまった。
ウィキペディアを見ると、解説はこう。
「この寓話には二つの寓意がある。一つは、キリギリスのように将来の危機への備えを怠ると、その将来が訪れた時に非常に困ることになるので、アリのように将来の危機の事を常に考え、行動し、準備をしておくのが良いというもの。 二つ目は、アリのように夏にせこせことためこんでいる者というのは、餓死寸前の困窮者にさえ助けの手を差し伸べないほど冷酷で独善的なけちであるのが常だ、というものである。」
思わず「おいおい」と唸ってしまう。
この話には、重大な誤謬がある。
そもそも「キリギリスは越冬しない」のだ。
キリギリスは秋には死んでしまうから、おそらく「冬」というものの存在すら知らない。
短い夏の間に、オスは伴侶を見つけ、子を作らねばならないから、メスを求め必死で泣き叫んでいる。それも、いずれ程なく「自分が死ぬ」ことを知っているからだ。
よってキリギリスは、アリに食べ物を乞うことなどせず、潔く死んで行く。
この寓話はキリギリスを貶めているわけだ。
とまあ、ここまでは誰もが気付く。
それじゃあ、アリは『クリスマス・キャロル』のスクルージ爺さんのような存在なのか?
しかし、個々のアリの寿命はひと月も無い。
女王アリはひたすら毎日子を産み、家来たちは自分たちの命を繋ぐために、毎日、必死で食糧を集めている。
アリは季節どころか、翌月があることも知らないのだ。
一生の長さを比べると、アリよりもキリギリスのほうがはるかに長く生きている。