日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第775夜 宿命

◎夢の話 第775夜 宿命

 17日の午前3時に観た夢です。

 

 夢の中の「俺」は、まったく別の人格だ。

 生まれた時から順々に人生を送って来たが、どれもこれも本来の「自分のもの」ではない気がする。

 どれひとつとっても違和感があるのだ。

 鏡で自分を見ても、家族や職場の仲間に会ったりしても、何となくピンと来ない。

 「どうやら、俺はこの男の意識の一部で、総てではないようだ」

 「俺」の自我に同居しているが、ただ茫然と眺めているだけで、主体的に動いたりはしない。「俺」の中にいることはいるが、独立してもいる。そんな感じだった。

 

 「俺」はごく普通の人生を送り、普通に齢を取って行く。

 三十歳頃に両親が死に、その後は年上の妻と二人暮らし。子どもはいない。

 四十歳になると、会社でもそれなりの職位につくようになった。

 魔が差したのは四十二の時だ。

 「俺」には別の女が出来、妻と別れることになった。

 もちろん、「俺」は用心深い性格だったから、「女」のことは妻には悟られぬうちに、離婚を成立させた。

 財産は総てを妻に渡した。まだ若いし、いくらでも取り返せる。

 後腐れなく別れるには、それがよい。

 家のローンが残っていたが、その負債を「俺」が引き受け、妻には更な家を渡した。

 俺には両親の遺した家があったから、そっちで暮らせばよい。

 大きな額ではなかったが、金融資産もすべて妻に渡した。

 妻は最初のうちは「どうして?」と訊いて来たが、「俺」の決意が固いことを知ると、書類に署名をした。

 「全財産を渡す」と言っているのだから、そこからはどうやっても分けられるものはない。

 

 半年くらいしてから、「俺」は別の女と暮らし始めた。

 「俺」が元の妻に対し頭を下げ、総てを渡したのは、その「別の女」が妻の妹だったからだ。妹は妻より十四歳年下で、まだ二十台だった。

 外見も性格も、元の妻とはまったく違う。

 俺は「俺」の様子を眺めていて、少しく笑った。

 「やはり共通点があるのだな。俺もこの男もだらしないところがある」

 一時の感情に流されてしまうのだ。

 「だが、いずれ自分で始末をつけることになりそうだな」

 ここは、俺はあくまで「俺」の一部だから、何とも変な感覚だ。

 「俺」が自問自答するのではなく、俺は厳然と「俺」の一部なのだが、しかし、コントロールの外にいる。

 

 新しい女が何という名前なのか、俺には分からない。

 俺には考える能力が欠如しているようで、記憶したり論理的判断をすることが出来ないのだ。

 とにかくその「女」と「俺」は一緒に暮らし始めた。

 

 「もしこのことがお姉さんに分かったら、お姉さんは怒るよね」

 「そりゃそうだ。ダンナを奪ったのは、ずっと自分が可愛がって来た妹だと知ったら、怒り狂って当たり前だ」

 「殺されちゃうかも」

 「かもな。でもま、ここはタレントがよくやる手段を使うしかない。知り合ったのは、別れた後です。別れて半年後に会って意気投合したんです、てな話だ。ああいうのは、離婚前から付き合っていて、それが原因で別れたが、営業上、その話は無かったことにする。表向きは性格の不一致とか、パワハラとか」

 「ずるいわね」

 「でも、真実は人の間に余計にゴタゴタを巻き起こす。嘘の総てが悪だというわけじゃない。結果的に傷つく者が減れば、それでよい。だって、もう引き返せないだろ」

 「・・・」

 財産を全部貰ったからと言って、妻が納得したわけではない。

 離婚する理由がよく分からないのなら、当然の話だ。人によっては、それを確かめるために、損得を度外視して食い下がる者がいる。

 

 「俺」の親は郊外に住んでいた。住宅地だが、昔からある家だから、家の後ろにはとりあえず畑もある。

 勤め先からはかなり遠くなったが、それほど苦痛ではない。

 新しい相手と、新しい暮らしを始めているからだった。

 

 「女」と暮らし始めて、数か月が経った頃、「俺」はいつものように目覚めた。

 朝食を食べ、スーツを着て、仕事に出かけようと、玄関の扉を押し開けた。

 すると、すぐ目の前に、元の妻が立っていた。

 そう言えば、昨日の夜から、家の近くの道路に車が停まっていた。

 あれはコイツだったか。

 「俺」が自分と別れた理由を知り、それを確かめに来たのだ。

 

 「ああっ。お姉さん!」と、「俺」の背後で「女」が叫んだ。

 「俺」の元妻は、「俺」から視線を外さずに、ショルダーバッグに手を入れていた。

 それを見て、俺は思った。

 「ふうん。俺はまた殺されるんだな」

 やっぱりね。前と同じ。

 「俺」はじっと元妻を見据えて、動かずにいる。

 

 元妻が「何か」をバッグから取り出す。

 俺は他の皆と力を合わせて、「俺」の体が1センチも動けぬように全身の筋肉を強張らせた。

 ここで覚醒。

 

 刺される直前に、「俺」は目の前にいる女のことを眺めて、「何かに取り憑かれているヤツは醜いな」と思っていたが、取り憑かれているのは「俺」の方だった。