日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第776夜 誰もいない

◎夢の話 第776夜 誰もいない

 19日の午前1時に観た夢です。

 

 気が付くと、玄関の三和土に立っていた。

 どうやら、郷里の元実家のようだ。

 「ここは今は倉庫で、普段は誰もいない筈だが」

 しかし、今はひとの気配がする。

 ひとが住んでいる家の中では、常に空気が動いている。

 逆にひとがいない家では、外から入り込んだ埃が、静かに床に降り積もり、空気が澱んでいる。

 「兄が『誰かに貸す』と言っていたような気がするな」

 それなら貸してあるのかもしれん。

 

 たまに荷物を取りに行くことはあるが、生まれ育った家が朽ち果てていくのを見るのは悲しい。

 行く度に寂しい思いがしたものだが、ひとの気配があれば、感じがまるで違う。

 よろよろと「上がりっ端」を上がり、廊下に進む。

 居間の前に行くと、引き戸が開いていた。

 実家は商売をやっていたから、いつでもすぐに店に行けるように、どの扉も開けてあった。

 昔どおりのさまに、何となくほっとする。

 

 居間を覗くと、電灯が煌々と点いていた。

 昔の通りだ。照明もそんなに古びていない模様。

 居間には誰もいなかったが、テレビが点いていた。

 テレビには、やたら漫才師が出ているから、たぶん、今は正月なのだろう。

 裏の戸が少し開いており、少し動いている。

 石油ストーブをがんがんに点けていたから、外から風が吹き込んで来るのだ。

 「建て付けが悪かったから、あちこちが緩んでいた。そんな家だったな」

 何だか懐かしい。

 窓ガラスの外では、雪がこんこんと降り続いていた。

 

 後ろの方で、「きいっ」と扉が開く音がする。

 玄関脇の応接間の扉が少し開いたのだ。

 開いたのはごく僅かで、その隙間から、誰かがこっちを覗き見ていた。

 「そっちに誰かがいたんだな」

 なるほど、ここにはひとが住んでいる。

 ぼんやりと立っていたが、応接間にいる筈の者は別段何もせず、じっとしていた。

 

 「これって、前に見たような景色だよな」

 何となく憶えがある。

 はるか昔、俺が中学生か高校生の頃のことだ。

 その頃、俺はいつも応接間の長椅子に座っていた。家の中でそこが一番温かいし、他の部屋に比べて静かだからだ。居間の先には店舗があるから、いつも騒がしい。

 「あれは確か冬のことだったな」

 店は休みで、父母は出かけていた。兄も部活に行っていたから、家にいたのは俺独りだった。

 俺は朝から応接間にいたのだが、夕方になると、廊下で足音がした。

 「おかしいな。今日は夜まで誰もいない筈なのに」

 叔父たちが勝手に中に入って来ることがあったが、必ず「おおい。いるか」と声を掛けながら入って来たから、叔父たちではない。

 そこで、俺は恐る恐るドアを開き、廊下の方を覗き見たのだった。

 

 「あの時は、結局、誰もいなかったよな」

 あんなにはっきりした足音だったのに、それを出した者がいなかったのだ。

 しかし、今ようやくその理由が分かった。

 「なるほど。あれは俺だったか」

 俺自身がかつての家を訪れ、足音を立てていたのだ。

 ひとが死ぬと、最も「思い」を残す場所に帰るものだが、やはり俺にとってはこの家がそれだった。

 何だか懐かしい。

 

 この時、俺の後ろで微かにひとが身動ぎする気配がした。

 振り返ると、廊下の端に母が立っていた。

 母は俺のことをじっと見ている。

 「お袋にとっても、やはりここが還るべき場所なのだな」

 それじゃあ、店の事務所のスト-ヴの前には、たぶん、父が座っているのだろう。

 ここで覚醒。