◎夢の話 第801夜 藤の花
7月1日の午前3時に観た短い夢です。
眼が覚めると、「俺」は長椅子の上に横たわっていた。
座っているうちに眠くなり、そのままそこで寝ていたようだ。
俺がいたのは、少し古びた家の居間で、目の前に縁側廊下がある。
縁側のガラス戸が開いており、庭の様子がよく見える。
庭の一番奥に藤の棚がしつらえてあり、花が幾つも下がっていた。
花の紫色が濃いから、ちょうど今が盛りなのだろう。
台所の方から足音が聞こえて来る。
四十台半ばの女性だった。
「お父さん。眼が覚めたのね。ちょうどお味噌汁が出来たところだから、食事の仕度をしますね」
中肉中是で、実際の年齢よりも若く見える。
女性は再び背中を向けて、台所の方に去った。
「お父さん。義母さんが亡くなって、もう二年経つけれど、全然実感がないわね。今にも電話が掛かって来そうな気がする」
カタコトと包丁の音が響く。
眼覚めた直後は頭がぼんやりしていたのだが、ここで次第にものを考えられるようになって来た。
台所では、また何やかやと話をする声が響いている。
「ところで」
俺は自分が考えていることを声に出して言った。
「ここはどこで、あの女は誰なんだろうな。俺にはまったく覚えがない」
あの女は女房のような口ぶりで話をしているが、俺の女房はまったく別の女だった。
外から唐突にアナウンスの音が響いて来た。
「ボーサイ※※です。今朝、※※に住む▽野□ヤコさんの行方が分からなくなりました・・・」
庭では藤の花がそよ風に揺れている。
ここで覚醒。
認知症なら、妻らしき女性が「知らない人」だというところまでだと思うが、この夢では、別の妻子をはっきりと憶えていた。そしてその家族は目覚めた時のそれとも違う。