日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎舌千類の思い出

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出品番号13

◎舌千類の思い出

 舌千大字無背は花巻の古銭会で、南部コインズO氏がぱっと出して、「はい。舌千大字の無背だよ」と「盆回し」にかけた品だ。

 製作が八戸だし、書体は大字。無背は銭譜に載っていない。

 見ると後ろには刮去痕がある。

 「何を迷うことがあるのか」とすぐさま手を上げた。

 ところが、その後、幾つかの場所で見せると、皆が首を捻る。

 「大字はドコソレに窪みがあるのだが」

 複数に言われると、自信が無くなって来る。

 しかし、収集家は過去の銭譜でしか物を考えられない人種なので、「ただ銭譜に載っていないことが不安なのだろう」とも思った。

 実際、八戸銭を研究し、それに精通している人はいないし、話題にすら上らない。

 結局は、時々、O氏と「夜の古銭会」で話すだけだった。

 

 改めて見直すと、最初の直感通り、「何を迷うことがあるのか」という品物だった。

・製作は八戸銭

・書体は舌千大字および十字銭の系統

・裏に刮去痕があるが、これが大字で舌になっている。

 作り方がヘタクソで、砂も悪いから、小異は各所にある。

 もし見立て違いで、「十字銭無背」だったとすると、さらに一段上の「初見品」となる。舌千大字の無背銭は、わずかに記録に残っているが、「十字銭無背」はどこにも無い。要するに「負けの無い戦」ということ。

 これを見て、首を捻った収集家たちは単に「目が利かなかった」だけのことだった。

 ま、そもそも珍品探査だけの人たちだ。

 

 ともかく、改めて八戸銭を眺めると、本当に面白い。

 とりわけ鉄銭のバリエーションときたら、あきれるくらい多種多様にある。

 「最初からここに分け入れば良かった」と後悔するが、ま、何事もそんなもんだ。

 ここは「分類」や「珍品探査」では太刀打ちできないジャンルだから、たぶん、二十年、三十年では埒があかないだろうと思う。

 鉄銭を検分するのは本当にしんどい。

 

 ちなみに、O氏が「八戸を買ってみる?」と言うので、「はい」と答えたら、翌週に渡されたのが160枚の背千の仿鋳母銭だった。枚単価5千円だからとりあえず80万の出費だ。

 舌千類などめぼしい品の無い仿鋳銭ばかりだから(概ね拾われてある)、処置に困り、雑銭に混ぜて売ったりした。結局、三百枚前後の母銭や銅銭を購入したが、「見すぼらしい」という理由で大半を処分してしまった。

 しかし、「見すぼらしい」のは、仿鋳銭ではなく、自分の頭の方だった。

 放棄した「見栄えの悪い」品の方に「歴史の真実」があったのだ。

 多くは藤八銭(目寛見寛座)やその他の小さい密鋳銭座のものだったのだろう。

 三百枚あれば、変化の過程を順を追って説明できたのに、今さらながら情けない。

 八戸銭を説明した「最初の一人」になれる可能性があったわけだ。

 

 だが、私の持ち分は品物ではなく「ひとの心」の方だ。もはや残りの日々は多くないのだから、専ら「こころ」を記すことに時間を費やそうと思う。