◎夢の話 第781夜 侍
26日の午前2時に観た二番目の夢です。
我に返ると、道の片隅に倒れていた。
砂利道で、幅は十メートルくらい。両側は崖だ。
自らの体を検めると、小袖を着て胴当てをしている。
「侍、と言うより雑兵だな。足軽の装束だ」
立ち上がって周囲を見回すと、あちこちに死体が転がっていた。
いずれも時代劇で見るような戦国侍の格好だった。
「いやはや、合戦中かよ」
しかし、俺は何ひとつ武具を持っていない。
すると、唐突に遠くから馬が駆ける足音が響いて来た。
「こりゃ合戦中の武士だな。敵か味方かどっちだろ」
俺は武器を持っていないから、もしそれが敵ならすぐに殺されてしまう。
そこで、俺は道端の死体の間に隠れることにした。
「馬を隠すなら馬の中。人を隠すなら死体の中か」
ちょっと違うが、まあ、選択の余地はない。
べろべろと赤い血に染まった死体の隣に横たわり、薄目を開けて様子を窺う。
すぐに騎馬二騎が近づいた。
一人は俳優のワタナベケンみたいな顔つきの侍で、もう一人はその家来だった。
二人は周囲に気を配りながら、ギャロップで近づく。
「あやつは何処に逃れましたかな」
「いや、必ずこの辺におる」
「どんな奴かも分かりませぬが、どうやって探しましょう」
「なあに、そ奴の頬には古い刀傷があるそうだ。それが目印になる。三日月型だから分かりよいそうだ」
こいつらが捜している奴には頬に傷があるのか。
念のため、自分の頬を探ってみる。
「なんてこった。こいつらが捜しているのは俺だ」
俺は慌てて傷のある頬を地面の側に向け、泥を擦り付けた。
ここで少し記憶が蘇る。
俺は足軽の格好をしているが、実は天魔衆の一人、すなわち忍者だ。
敵方に入り込み情報を収集するのが務めだった。
「そうなると、俺はこいつらの秘密を掴み、合戦のどさくさに乗じて逃げようとしているわけだな」
道理で、騎馬侍と同じ色の装束を着ていた。
騎馬侍たちは馬の歩を緩め、道端の死体を覗き込んでいる。
俺のすぐ近くに来たので息を止めたが、二騎がなかなか通り過ぎぬので往生した。
二人は俺に気付かず、ようやく通り過ぎてくれたから、そこでやっと俺は息を吐き出した。
「ふう」
音を立てぬように吐いたつもりだったが、何か感ずるものがあったらしい。
ワタナベケンが振り返った。
俺は気取られぬように表情を強張らせたのだが、侍はその俺の顔をじっと凝視している。
「こ奴。顔が赤くなっておるぞ」
俺は長いこと息を止めていたから、その影響で顔が赤くなっていたのだ。
「不味い」
俺はすぐに立ち上がり、道の反対側に駆け出した。
ここは峡谷の間の道だから逃げる場所は無い。だが、この谷が切れるところまで行けば、逃れる道はあると踏んだからだ。
すぐに背後に馬の足音が迫る。
俺は走りに走り、峡谷を抜け出た。
すると、すぐに大きな岩があり、その下の隙間から、向こう側の様子が見えていた。
岩の反対側には大きな川が流れている。
「よし。あの川に飛び込んで流れてしまえば、追い駆けては来られない」
すぐに大岩の下に潜り込んだ。
ところが、岩の真下を抜けようとした時に、体が詰まって動けなくなってしまった。隙間が予想より狭かったのだ。
前に行こうとするが、しかし、身動きが取れない。
あの侍が近づき、俺の様子を見取ると、侍は馬から槍を持ち出した。
そして、俺が凝視する中、そいつはその槍を俺の体に向け突き出した。
「ヤアッ」
すぐさま肝臓の辺りに熱さを感じる。
「ああ、俺は死ぬのだな」
苦痛は一瞬のことで、俺はすぐに意識を失った。
ここで覚醒。
死ぬ夢は典型的な吉夢なのだが、果たしてどんなものだろうか。
当方にとって厳しい日々が続く。