◎古貨幣迷宮事件簿 『寛永当四 未勘銭 延展 俯永手 破冠宝』について
この銭種については、専門誌に最終リポートを送ろうと思っていたのだが、優先すべき事柄が多く、なかなかその機会がない。
その間に、資金調達のため、蔵品が2品流出した。
七年くらい前に調べたところでは、東日本の収集家蔵としては、凡そ13品が確認できた。そのうち3品が私の蔵品だったが、2枚を譲渡したので、残るは1品になってしまった。複数枚所有している収集家は私だけだったので、今はその2枚を所有する収集家(同一の人だ)がこの銭種を「最も所有する人」になる。
NO.2および3は旧蔵品であり、今は手元にない。予め現蔵主に照会したうえで、画像を使わせて貰うことにした。
詳細な説明を加える時間が無く、これまでに幾度か紹介済みの品なので、簡単に記すものとする。
NO.1は大濶縁銭。輪幅には様々あるようだが、これが最も広い。
NO.2,3は濶縁銭。
これらは特徴が極めて顕著だが、いずれも江戸本座俯永を台として作られた密鋳銭になる。仙台削頭千無背にも似ているが、この「削頭千」自体が俯永を「範として」作った品なので、近しい親戚ということになる。
NO.4は、まったく同一の特徴を持つが「輪幅加工の無い品」である。書体、とりわけ宝字が変化しているので、この型(母銭)が出来た後での変化と言うことになる。
すなわち、輪幅加工は「最後に加えられた」加工になる。
NO.5は、製作の等しい「小字手」だ。「小字写し」でなく「手」になるのは、これも「書体に変化が生じている」からという理由になる。
密鋳銭で、製造法がこの品に最もよく似ているのは、延展銭および踏潰銭だろう。
いずれも面背を研ぎ、あるいはさらに面のみ背のみの2枚を貼り合わせるという手法で最初の母銭を作成している。違いは、削字削波の有無だけだ。
この俯永手にはひとまず「延展」と記してあるが、削字が加えられており書体に変化が見られる。技法的には踏潰の仲間と言ってもよいが、銭容は延展銭のほうが近い。
今のところ、あまりにも存在数が希少であることから、銭名を確立できない状況にある。
「文久様」辺りよりはるかに存在が少ないうえに、堂々たる美銭が多いので、位付けは最上位で良いと思う。銭を薄く、美しく仕上げる技術を、「これでもか」と言うほど投入している。
特徴の詳述は、いずれまた改めて加える。
ついでに思い出話を少々。
NO.4を入手したのは、ごくたまたまだ。みちのく大会の、確か秋田大会に参加した時に、密鋳銭の百枚セットが盆回しに出ていた。
何気なく手に取ってみると、端から2、3枚目にこの品が混じっていた。
この銭種は、宝冠が破れている他に、谷の同じ位置に鋳溜りが複数個所あるのだが、これが総て揃っていた。
この一枚のために百数十枚を入手したわけだが、これがあったので製造法を調べる作業が大幅に進んだ。
まだ他にもあるのではないかと考え、密鋳銭に目を通す度に「目を皿のようにして」探したのだが、その後は何百枚に目を通しても出て来ない。
形態は見すぼらしいが、なるほど、希少銭種と同時に作られた希少品だということだ。
追記)濶縁銭はともかくとして、俯永手は密鋳銭の中に紛れている可能性がある。
主な特徴を記すので、蔵中を点検すると見つかるかも。極めて希少な銭種だ。
ちなみに「古い銭譜にも掲載されている」とのこと。こちらを調べても楽しめると思う。