日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第937夜 インタビュー

◎夢の話 第937夜 インタビュー

 十一日の午前二時に観た短い夢です。

 

 知人の紹介で、メディア人の「誰か」と話をすることになった。

 俺自身としてはそんなことは塵ほども考えないが、中に立った知人には義理がある。

 常々、「親の葬式以外は人前に出ない」と言っているので、滅多なことで誘いが来ることは無いが、その知人はそのことを知らない。

 おざなりでも、一度は付き合う必要があった。

 

 指定のカフェに行くと、その相手らしき人が待っていた。壮年の男性だ。

 一人だから、取材されるわけではないらしい。

 ああ、よかった。脛を蹴らずに済む。

 案内され椅子に座ると、相手はよく知られた顔だ。テレビに出ている人だ。

 「テレビに出ている」は、誉め言葉の場合もあれば、逆の場合もある。

 俺の場合は後者だ。頭の中で「ま、簡単に済ませよう」と思う。

 

 「挨拶は結構ですから、すぐに用件に入って頂けますか。私は持病があるので、椅子に座って居られるのも三四十分の間です」

 「分かりました。では」

 男性が目配せをすると、ウエイトレスが飲み物を持って来る。俺は頼んでいないが、先に用意してあったらしい。

 「時々、画像を拝見させて頂いていますが、私はどうも理解できない。それでご本人に確かめようと思ったのです」

 画像と言えば、大体は幽霊の件になる。

 「見えませんか?」

 「ええ。あまり」

 「それなら、そのままでいるのが一番良いことです。いざ垣根を飛び越えてしまうと、もはや止められなくなりますから。立ち入らず、興味を持たず、穏やかに暮らすことを心掛ければ、無難に人生を送ることが出来ます」

 「のっけから話を終わらせないで下さいよ」

 ま、それもそうだ。わざわざ俺に会って、話は幽霊のこと。となれば、「何か問題がある」のは言うまでもない。これは占い師が客の「悩み」を言い当てる基本テクニックだ。

 客が占い師に相談に来るのは何かしら「悩み」があるから。あとは性、年齢などで割り出す。

 だが、そんなのは俺には関係ない。俺は占い師でも祈祷師でもないからだ。

 

 「私が画像を公開しているのは、ごく少数の私と同じ悩みを抱える人のためです。母は終生、夜中の二時に決まって訪れる人影に苦しんでいた。私もそうです。そこでそれを解決するために研究・検討を始めたわけです。一般の人の好奇心を満たすためではないのです。今のところ、私と同じものが見える人は千人のうち数人の割合で、私のブログを見る人の中には二十人くらいいますね」

 これは反応の仕方を見れば分かる。で、そういう人はそのことを隠して暮らしている。

 

 と話したところで状況が見えて来た。

 この男性は自身について話をする前に、俺を値踏みしているわけだ。相手を確かめずに相談ごとを持ちかけると、ロクなことにはならないからだ。

 「死期の迫った人は独特の匂いを発します。お線香のような樟脳のような匂いに魚が腐ったような匂いが混じります。私自身はもはや七八年くらい前から、梅の香りのするお線香の匂いがするようです。要するに、その人が抱えた状況は何がしかでも表に現れるのかもしれません」

 男性は何も言わず、俺の眼を見ている。やはり躊躇するところがあるのか。

 時間が勿体ないから、俺の方から話を先に進めた方が良さそうだ。

 「貴方はお化粧の匂いがします。女性のね」

 男性の右の眉がほんの少し上に上がった。

 

 視線をほんの少し右に移すと、男性の肩越しにカフェのフロアが見えた。この店は中央に空きスペースが設けられていた。

 そこに何気なく眼を遣ると、黒い煙がもやもやと現れて来た。

 煙は瞬く間に影となり、ひとの姿になって行く。

 「あ。あれは・・・」

 つい何日か前にも見た「黒い女」じゃないか。

 俺の脳みそが震撼する。俺の脇で「もう目覚めろ」「目覚めろ」という声が聞こえる。

 「なるほど。やはり俺はあの女の眼に止まっていたのか」

 俺の周りには常時、煙玉が渦巻いているから、「あの世」の者の眼に止まりやすい。

 多くの幽霊が俺のことを見付け、そして後をついて来る。

 体中からどっと脂汗が出て来る。

 「コイツはやっかいなヤツに見込まれたもんだな」

 「縞女」にも苦しめられたが、コイツの内面はもう人間の持つ感情からかけ離れている。

 

 「黒い女」は見る見るうちに実体化して、頭からショールを被り鼻の下を覆った、あの姿になった。両眼だけが爛々と光っている。

 だがここで俺は気が付いた。

 今、女の視線の先にあるのは、俺ではなく俺の前に座る男だった。

 「ふうん。標的はこの人か」

 

 ここで男性が口を開こうとする。

 「実は・・・」

 俺はそれを遮って言った。対処を急ぐ必要があるのだ。

 「貴方は女の人を殺してますか?これは直接的、間接的、あらゆる意味です。苦しめて自殺させたりすることも含みます」

 男性が眼を見開く。

 どうやら図星のようだ。

 次の瞬間、「黒い女」がしゅうっと近付き、男の肩に自身の顔を載せた。

 ここで覚醒。

 

 こういう感じの夢は、何かしら示唆がある場合と、想像が膨れ上がった場合のふた通りがある。

 目覚めた時には、全身が脂汗に塗れていた。

 「黒い女」は悪霊中の悪霊で、私はその女の佇まいから「スペードの女王」と呼んでいる。はっきり目視出来るほど強い相手だから、目の前には立たれたくない。

 

 「アモン」はどこか「仲間」のような気がするのでほとんど怖れを感じぬが、この「黒い女」は正直、怖い。

 「人生で最も怖かった怪談・ホラー映画」を訊ねると、誰でもひとつ二つは思い浮かぶだろうが、そういうのとは「桁の違う」怖ろしさがある。