◎病院での出来事
治療を終え、腕に止血バンドを巻く段になり、この日の当方担当だった看護師長が「バンドがありませんよ」と言う。
「朝確かにそこに置いたが、更衣室に忘れたかもしれんね」
そう答えて、病棟のを借り、更衣室に落ちているかを確かめに行くと、やはりロッカ-には無かった。
いつもロッカーに置いているから、ベッドのテーブルまでは持って行ったということだ。
ひとまず「ベッドの周りに落ちているかもしれんから、見ておいてね」と看護師に伝えた。
だが「誰かが持ち去った」のは疑いない。
ここは入院病棟と同じだから、「物が無くなる」ことがよくある。
概ね「ボケ老人」が多いので、盗ろうとする意図は無くとも「何となく手に触れるものを持って行く」患者はざらにいる。
母が入院していた時に言っていたが、「勝手に他人のロッカーを開けて探る患者がいる」とのこと。母は自分のロッカーを開けようとする患者を実際に目撃したので、ロッカーに極力、物を入れぬようにしていた。
服とかタオルみたいなものを持って行くとのこと。
思わず、「やめろよ」と口に出して言った。
言った相手はアモンだ。
こないだ、アモンに祈願したが、どうやらそれが「扉を開けて迎え入れる」行為だったらしく、以前にも増して、身近に悪縁の所在を感じる。
煽り運転などを目にしたら、たぶん、その人間を始末してしまうという確信がある。アモンに心を乗っ取られるためだ。
次に見つからねば、自動的にアモンが出動するだろうな。
この世では、罪の最たるものが殺人、強盗、詐欺の順だが、あの世のルールで最も大きな罪は「欺瞞」だ。
ま、肉体を持たぬのだから、そもそも「殺人」みたいなことには意味が無い。
だが、「欺瞞」や「嘘」、「ひとの心を傷つけるふるまい」は同じ罪で、この世で言えば、全部が死刑相当の重罪だ。
罪の軽重はなく、いずれも「死刑相当」。
「死」はあの世では意味を持たぬから、亡者の群れの仲間に入り、宛も無く彷徨う。
現世のうちでの発動はあまり無いのだが、死んだ瞬間にそれまでの応報がやって来る。
たまに現世の報いが起きることがあるが、それはアモンみたいな悪縁が関与している。
アモンの怖さは、当事者ではなく、子や孫と言った周辺から崩して行くことだ。
おまけに当事者とは関係なく、「その場にいた」みたいなことで、周りの者に危害を加える。
「病棟全体でバタバタと行かれるかも」と思うと、空恐ろしい。
こういうのは簡単だ。コロナを入れれば大半がお陀仏だ。
ここで我に返り、最初から思い返してみる。
「物がふっと消えるのは前にもあった。お薬手帳とか、些細なものだ。こういう手口は、『小鬼が悪戯する』ケースがある」
小さい鬼みたいな者が人を困らせようと、小さな物を目の前から消す。
ちなみに、こういうのは現実に存在しているようで、家人ははっきりと「15センチくらいの背丈の小鬼を実際に見たことがある」と言っている。
で、「小鬼」という言葉でドキッとする。
「そりゃ、最近見たよな。神社の前で撮った写真に写っていたもの」
とりあえず、お焼香をしアモンに頼んだ。
「止血バンドなんか何百円もしないのだから、また買えばよい。そんなことで人を殺めたりするなよ。孫や子どもに罪は無い」
でも、アモンを止めるのは難しい。
もし当方が逆の立場なら、こんなタイプの者には近づかないと思う。「アモンはただの想像や妄想ではない」ことが明らかだし、どんな祟りが降って来るか分からない。