日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎散々な一日

◎散々な一日

 火曜は通院日。

 朝、髭を剃ろうと鏡を見ると、顔全体に産毛が伸びている。

 コロナの影響で、この一年は「カットだけ」にしているからだ。

 そこで少し剃ることにした。

 私はそもそも、アレルギー持ちであるため電気カミソリが使えず、いつもT字剃刀で髭を剃っている。

 ここもT字だ。(今は置いてある店自体が少ない。)

 ところが、目立つところだけ剃刀を当てると、眉毛の上に吹き出物(かイボ)があったらしく、それを刈ってしまった。

 「イテ」と思った瞬間、手が逸れて、勢いで眉毛を半分剃り落してしまった。

 「おいおい。これじゃあ、ちょっとイカレた人だよな」

 

 消毒をして病院に向かったが、血が全然止まらない。

 この辺は「血が固まらぬ薬」を多数飲んでいるせいだ。また、病院での治療にもヘパリンを使うから、傷口が開いたままになる。

 額を伝って血が流れ落ちているのを看護師が見つけ、止血のためにでっかい絆創膏を貼られてしまった。

 「もしかして、事故なんかで僅か五センチくらいの傷が出来ても、命に関わるんじゃね?」

 そう看護師に訊くと、「処置しなければ有り得ます」との答え。

 五センチの浅い傷で、周りに血飛沫を飛び散らせるそうだ。患部を縛っても、血がダラダラと流れ出る。

 

 この日の治療が終わり、病棟の外に出ると、エレベーターの前や下駄箱近くには先客が複数いた。そこで、階段を降りることにしたが、一階に届くところで、から足を踏んでしまった。

 絆創膏で前がよく見えなかったせいだ。

 これでせっかく股関節の痛みが良くなっていたのに、同じ関節の「別の個所」を痛めてしまった。

 なんてこった。

 自身の不注意なので、文句も言えない。

 つくづく、「これが年老いて弱っていく者が抱える現実だ」と感じた。

 足腰から崩れて行くわけだが、逆に「足腰がしっかりしていれば、まだ大丈夫」ということでもある。

 とりあえず、歩くのが難儀で、ジーサン風の「ゆっくり歩き」に。

 

 ところで、五輪が終わってしまい、また退屈な日々が戻って来た。

 病棟では、ベッドに横たわり六時間以上過ごすので、その時間を持たすのに苦労する。

 テレビはすぐに飽きるし、日中は観るものが無い。

 国会があれば、発言者ではなく、ずっと離れた席にいる議員を観察出来るのだが、今はそれもない。 

 ちなみに、自分が見られていると思っていないので、ガードが低い。ナンボの者かはこれで分かる。

 

 仕方なく、映画のDVDを持参した。この日はロシアのサスペンスとコメディの二本立てだ。双方とも五本レンタルの員数合わせ。

 丸々二本を観ても、まだ時間が余るほどだが、良い映画が当たれば、そこそこもつ。

 今日の二本立ての最後は『ステージマザー』だった。

 前に予告編をちらっと観たが、あらすじはこう。

 息子が死んで、その遺産として貰ったのが、ゲイのショーパブだった。

 要は「バーサンがそのショーパブの改革に乗り出すと・・・」みたいな話だった。

 これって、『天使にラブソングを』みたいな、自己回復の話だったような気がする。

 スポーツとかショービジネスで、「ダメダメだった連中が主人公の働きで、出来るようになる」みたいな、ごくありきたりな話だ。

 この手のは設定を置き換えて、繰り返し作られている。

 それなら、「二十分は持たせられるかな」と思うが、その辺までだろ。

 

 ところが、この映画は割合、成功していた。

 安直な設定、ありきたりな展開で、ネタはすぐに割れるのだが、それでも観ていられる。

 「作り」自体は「再生」の話なのだが、実際は、「母と子」の心情を描く話だった。

 もちろん、冒頭で息子は死んでいるから、他の者の口を通して知られるだけ。

 主役のジャッキー・ウィーヴァーさんが「出来の悪い息子のことを案じ続ける」母親の姿を上手に演じている。

 この女優さんは、沢山の映画に出ているが、近年は脇役ばかりだった。メイキングで「十年以上ぶりにメインの役どころを貰えた」と言っていた。

 おそらくは、尺が短く、展開が早すぎるから、「作っている」「盛っている」感が否めない。これは確か。

 こういうのは1クールくらいの連続ドラマで、じっくりと心情を描いていければ、見ごたえがある話になると思う。

 

 それでも、この系統の映画としては、かなりよく出来ている。

 私も母親にさんざ迷惑を掛けた「不肖の息子」だけに、母がどんなことを感じていたのかを想像させられた。

 何時の間にか涙を零していたが、いいオヤジジイがベッドの上で涙を拭いていたのを見たら、周囲は「かなり引いた」と思う。

 ちなみに苦痛で「叫んでいる」者は時々いる。

 さて、これは「見る人を選ぶ」映画で、自分をいずれかの立ち位置に置くことが出来ぬ者であれば、ほとんど感動しない。

 若い人にとっては、「バーサンが主役のつまんねー映画」だと思う。

 セクシーな女優さんも出て来ない。出るのはほとんどゲイだけ。

 ジャッキー・ウィーヴァーさんの演技なのか、監督の演出なのかは分からぬが、芝居を押さえているので、平坦な表現に映るはずだ。

 だが、この方が芝居に深みが出る。

 

 ちなみに、映画では「役者がゲイを演じている」のではなく、「ゲイがゲイを演じている」模様。

 冒頭は、ゲイバーでありがちな口パク歌唱で始まるのだが、後段は実際に歌う。

 トントンとうまくことが運び過ぎるのだが、それも一時間ちょっとの長さに収めるためだろう。

 

 映画の方は良かったが、またまともに歩けぬ状態になった。

 これで日々を戦わねばならんのか。思わずため息が出る。

 片方の眉毛だけ短いので、いっそのこと両方とも全部剃り、頭もツルツルにしようか。

 心臓に持病があり、いつも顔色が悪いから、傍を通り掛かった人が思わず避けるだろうと思う。

 

 ま、嘆いても何も始まらない。状況をよくすることが出来るのは自分だけだ。